最初に、六本木・ビルボードライブ東京で、新進の1986年生まれUKシンガーソングライターを見る。その慈しみの情をたっぷり抱えたデビュー作はビル・ウィザースやテリー・キャリアなどをまず想起させる傾向の曲が収められていたが、生のパフォーマンスはそれにおさまらないいろんな部分を出していた。ショウはギター類を弾きながら歌う当人に、ベーシストとドラマーがつく。

 意外であったのは、スライド・バーを用いるドブロ・ギター(チューニングはもちろん、オープン・チューニング)、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギターと、曲によって弾く楽器をわけていたこと。1曲目はドブロを持ち、その際のリズム隊の演奏はジミ・ヘンドリックスのエキスペリエンス的とも言えたし、そのままジェイムズ・ブラッド・ウルマーの牧歌的1コード曲に突入してもおかしくないゾという風情もほんのり持っていた。そういうときは、彼のごつごつし、より動的な感覚が外に出る。ドブロはあとも1曲持ったはずだが、そういう側面はCDにおいては見事に省かれている。一方、アコースティック・ギターによる、訥々弾き語り曲も2曲。ベースとのデュオも1曲。いろんなことやりたそうだし、今後、セールスに結びつくかどうかは別として、変容していく可能性もあるナと思わせる実演だった。彼は昨年のフジ・ロックにも出演。ぼくは別の主演者を見ていて、それには触れてないが、そのときはどんなパフォーマンスを彼は見せたのか。

 そして、南青山・ブルーノート東京。親日家でもある大御所米国人ジャズ歌手とかつて共同作業を持った日本人アーティストたちが邂逅する出し物。彼女達はこの単位で、先に北海道で2公演を持ったようだ。

 まず、佐藤允彦(ピアノ)が、加藤真一(ベース)と村上寛(ドラム。2009年1月22日)を擁するワーキング・トリオで演奏。粒立ちのいい指さばきのもと、ジャズたるワクワクや奥深さが品良く送り出される。佐藤はいろんな才を持つ人物だが、やはり秀でたジャズ・ピアニスト。すんごく久しぶりにその実演に触れたが、今度ちゃんと彼のパフォーマンスに触れたいナと思うことしきり。あと、髪の毛ふさふさの佐藤、すでに70歳を超えているが、あまり老けていないないなあとも感心する。
 
 そして、途中から尺八奏者の山本邦山が加わる。ぼくが子供のころにすでにジャズの尺八奏者としてエスタブリッシュされていたと記憶するが、普通にスーツを着た彼は人間国宝を授けられていて、東京芸大教授をつとめたりもした人物であるのか。尺八音に少しエコーがかかりすぎと感じたが、その演奏自体は達者にして滑らか。サックス奏者の演奏をそのまま尺八に置き換えたという感じの吹き口を見せ、音色を巧みにコントロールしつつフツーにインプロヴァイズする様には無条件に頷かされる。へえ〜。

 と、ここまででショウの半分強がすぎた。メリルを見たいっと気張って見に来た人は一体いつ出てくるのかと気をもんだかもしれぬ。だが、彼女もすでに80歳超え(1930年生まれ)。前回みたとき(2005年7月10日。その後も何度か来日しているはず)、ロバータ・フラック(2008年3月5日)ほどではないにせよ、喉の衰えはあったので、要所で適切な曲数を歌えばいいと、ぼくは思っていた。で、結局、彼女はこのセットでは5曲を歌った。

 出てくる様を見て、少し足腰が弱って来ているのかなと思ったが、ステージにあがった小柄な彼女を見て、まずうなる。華のある黒基調の衣服にサングラス(ぼくが前回みたときはしていなかった)をした様がただ者ではない。とてもサマになっていて、風情もたっぷり。ぼくの母親のほうが少し年下だが、わが母の有り様との差に……って、比べるものでもないですね。そして、余裕たっぷりに「サマータイム」を歌いはじめたが、思っていたよりちゃんと歌っているという印象を持つ。50年前の滑らかさも輝きもないわけだが、今の彼女にはジャズ歌手をずっとやってきたゆえの重みや品格や妙な訴求力がある。それは、純音楽的物差しや理屈を超えて、見る者にちゃんと届く。さらに「枯葉」、「オール・ブルース」、「サムタイム・アイ・フィール・ライク・ア・マザーレス・チャイルド」とあまりに知られるスタンダードを披露。そして、最後は当たり曲「ユード・ビー・ソ・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」、このあたりになると彼女の声はだいぶヘロってきて、このあたりが適切な長さかなと思えた。

 物理的な量をばかみたいに超える、生理的なサムシングの量のバカでかさ。ジャズ、歌う事を生業として来た人間の多大な積み重ねが導く、言葉にならない何かがちゃんと開示されていた。非ジャズのちゃらちゃらしたところも持つ歌い手と一緒に見ていたのだが、もう胸がいっぱいになって涙が出た、そう。

<今日も、ヘロった>
 ここのところ、すぐに目がさめる傾向にあって、ハンパなく早起き。でも、やはり公演を見た後はバテてて酔っぱらってもいるのを自覚しつつ飲み屋巡礼をしたくなる。で、深夜、知り合いにあくびしているねと指摘される。確かにコンサート中にあくびはしても、飲んでいてアクビをすることはあまりないかもなあ。

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