純ジャズとジャジーなクラブ・ミュージック/ポップ・ミュージックの間を自在に行き来する1980年生まれ米国人歌手(2008年9月18日、2010年11月11日、2011年1月12日、2012年2月18日、2012年9月13日)の公演はフル・ハウス。ブルーノートに移籍してリリースした『ノー・ビギニング・ノー・エンド』(2012年9月13日、参照)が過去作と比較にならないぐらい話題になっているという話は聞いていたが、今回の2日間4公演も早々に売り切れたという。六本木・ビルボードライブ東京、セカンド・ショウ。

 電気ベースのソロモン・ドーシー、4ヒーローで叩いていた事もある英国人ドラマーのリチャード・スペイヴェン、NY在住のトランペッターの黒田卓也はジェイムズの近作にも参加し、昨年2月のバンド公演のライヴにも同行している人たち。キーボード/ピアノのクリス・バウワースはマーカス・ミラー(2010年9月3日、他)からこのところ気に入られ、ジェイムズがスペシャル・ゲストと紹介したトロンボーンのコーリー・キングはクリスチャン・スコット(2011年12月17日、他)やエスペランサ・スポルディング(2012年9月9日、他)の新作で吹いている。管の2人は半数ぐらいで加わったか。

 そんな気心知れ、スキルもある人たち(ぼくは、ベース奏者に一番ニコっ)の、ジャジーで、温もりやグルーヴあるバンド・サウンドを得て、ジェイムズは悠々と、含みを持つ曲を歌う。その大半は、新作からのものであったはず。そして、すぐに感じてしまったのは、この人、こんなに歌声に存在感あったっけか。平たく言えば堂々、以前よりもでっかい声に聞こえる。これは、ぼく同様に何度か彼のショウに接している人も同様の感想を漏らしていた。卓をいじるエンジニア(曲によっては、ダブっぽい効果も少しかます)が優秀だったのかもしれないが、あれれというほど、ジェイムズの声は仁王立ち、聞き手に働きかけていた。

 そして、2曲では、新作に入っていた、かつてR&B調のリーダー作をだしたことがあるエミリー・キングがギター片手に出て来て、2曲一緒に歌う。アフリカ系ではない彼女(実は、ジェイムズとけっこう顔が似ていると、ぼくは思った)はフォーキー系シンガー・ソングライターといった感じ。なるほど、ライヴに接して、彼女も彼にしっかりと“風”を与えているのを認知した。

 ジェイムズが生ギターを持ちながら歌った(それ、2曲だったか)のは初めて、客席前にいる女性のお客さんに握手を求めたのも初めて。最後、客が見事なほどスタンディング・オヴェーションになったのも(彼にとっては)初めて。そして、なにより、あんなに彼がうれしそうにパフォーマンスしていたのも初めて。ジェイムズさん、ブルーノートに移籍して良かったァと思うとともに、かなり音楽家としての冥利も感じていたのではないか。ぼくがこれまで見た彼の実演のなかで、一番良いと思えました。

<今日の、昼下がり>
 昼下がりに、ホセ・ジェイムズが新規所属アーティストとなったブルーノート・レコードのコンヴェンションがビルボードライブ東京で開かれ、それに合わせて来日した同社新社長のドン・ワズが挨拶し、少しお話した。1952年デトロイト生まれ、1980年代初頭にハイパーかつマニアックな複合性を持つファンク・ポップ・ユニットのウォズ(・ノット・ウォズ)で世に出て、その後、ザ・B-52ズ、ボニー・レイット(2007年4月5日)、ボブ・ディラン、ザ・ローリング・ストーンズ((2003年3月15日)ら、様々なものを手がける敏腕プロデューサーとしてよく知られますね。また、初期ザ・ビートルズを題材にした映画『バックビート』のサウンドトラックもぼくには印象深い。実は彼にはインタヴューをすることになっていたが、体調不良でキャンセル。けっこう、話をいろいろ聞きたい人であったな。そんな彼はベース弾いたり、好きなレコーディングに関わっていればOKと思っていそうな政とはあまり縁のない御仁であるような感じをぼくは得ていたが、じっさい社長になって(その前に少し同社A&Rの職についたよう)、一番びっくりしているのは、彼自身であるのだとか。ともあれ、外見は髭面のウェスタン・ハットをかぶったおっさん。格好もまるっきり、奇麗とは言えない。それゆえ、日本についた際、イミグレーションでとめられたという。うぬ、ちょい良い話じゃ。そのコンヴェンションでは、ホセ・ジェイムズがバンドとともに4曲だったか演奏。うち、2曲はエミリー・キングが本公演と同様に関わる。彼を呼び込むとき、ドン・ワズは、“ジニアス、モダン・ミュージック”と前置きしたような。まず、社長になって彼がしたのは、ウェンイン・ショーター(2004年2月9日、他)を同社に呼び戻すことと、アーロン・ネヴォル(2012年5月14日、他)の新作録音にキース・リチャーズ(2003年3月15日)を呼ぶことであったそうな。再びブルーノートに出戻るヴァン・モリソンの新作はどんなものになるのだろうか。なんか、『アストラル・ウィークス』と繋がりが出てくるような内容になったらうれしいが。今後の、彼の舵取りに期待したい。→来年は、途中休止があるものの、ブルーノート設立75周年となるそうな。なお、黒田卓也は近くジェイムズのプロデュースで新作を作るそうで、それはブルーノートから出るようだ。

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