同じ高校同窓生のビヨンセ(2001年6月25日、2006年9月4日)は2年下なんだと言っていたことがるので、1979年ぐらいの生まれとなる現代ジャズ・ピアニスト(2007年10月3日、2009年4月13日、2009年12月19日、2010年12月16日、2012年6月12日)の4人組ワーキング・グループの公演は毎度の面々によるもの。で、昨年新作『ブラック・レディオ』(ブルーノート)はいろんな歌手をフィーチャーしての、<ジャズを知っている私の現代ブラック・ポップ作>と言うべき仕上がりだったわけだが、今回のショウはそこにも入っていたレイラ・ハサウェイ(2002年5月 13日、2004年5月10日、2008年5月13日、2010年7月13日、2012年1月5日)を伴ってのもの。

 とはいえ、最初の40分強はヴォーコーダーやエフェクター経由のアルト・サックスを駆使するケイシー・ベンジャミン(そう言えば、今回はお得意のショルダー・キーボードは持たず。手元ではちまちま小さい装置を扱っていたものの)をフィーチャーする毎度のスタイル。そして、その後の30分はハサウェイ(今回、眼鏡をしてステージに出て来た)が出てくるものの、全面的にフィーチャーされるということはなく、やはりベンジャミンが主体になる曲があったりして、彼女は1曲づつリード・ヴォーカルとベンジャミン主体曲でスキャットをとった。もったいねえ、もう少し歌わせても良かったのではないか。かつて、ミント・コンディション(2006年6月25日、2008年7月26日、2009年7月10日)のストークリーをフィーチャード歌手として伴ったショウ(2010年12月16日)は疑問を覚えさせることなくいい案配で重なっていたのにな。

 過去のライヴの項でも指摘しているが、グラスパーはトリオでやった初来日の時と比較するなら、ものすごくソロを取らない。ショウの最初にソロでピアノを弾いたり、カリンバを模したような音を出す電気キーボードでソロを取ったりもしたが、フレイズの反復を基調とするそれは旧来のジャズの文脈からは大きく離れると書けるもの。けっこう鍵盤を弾かずに傍観者/統括者でいる場合もあったが、それはベンジャミン以外の2人のメンバーにもたっぷりソロのパートを与えたからでもある。そのドラムと電気ベースのソロもイビツ(でも、意外にシンプル)なシークエンスを綻びの感覚を孕みつつ呪術的に重ねて行くような感じで、従来のジャズ系奏者のそれとはけっこう違う。だが、あそこまで延々とやらせる必要はあったか。まあ、一時はグラスパー以上に彼を見に来ているライヴ客が多いんじゃないかと思わせもした変則ドラム王たるクリス・デイヴ(2012年9月21日、いよいよ彼が叩いているディアンジェロの新作がリリースされるようだ)にかわってエクスペリメントに加入したマーク・コレンバーグは外様ノリが払拭されていたけど。

 この4人組だとハービー・ハンコックのザ・ヘッドハンターズ〜ヴォコーダー使用表現のノリを色濃く出す傾向が過去はあったのだが、今回それは後退ぎみ。あと、左手はエレクトリック・ピアノをおさえ、右手でアコースティック・ピアノを弾くという場合が少なくなく、その組み合わせをグラスパーは好きなんだなと認知。これまでぼくが見た彼のショウのなかで一番バランスが悪いなあと思わせられつつ、完全にヒップホップ系のあんちゃん格好でステージにいるグラスパーの不可解さ〜それは、もちろん美徳である〜を再認識させられたという感じか。ジャズと現代ポップの間の迷宮で……。よく分らない部分、煮え切らない部分、足を踏み外している部分もあると感じるが、グラスパーは自分のいるべきところを求めんと腐心していたのは確か。六本木・ビルボードライブ東京、ファースト・ショウ。

<今日の、体験>
 そのバンド名である“エクスペリメント”は字義通り、音楽の試みを与えたいという思いからなのか。よく知らないが、そのグループ名は、その横繋がりの単語である“エクスペリエンス”という言葉を自分のトリオに用いた2人の先達を、ぼくに思い出させたりもする。ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスとザ・ジャキ・バイアード・エクスペリエンス。やはり少し電波な視野の広さを持っていたジャズ・ピアニストであるバイアードはヘンドリックスのバンド名を真似して名乗ったと考えられるが、その同名の1968年作(プレスティッジ)にはラサーン・ローランド・カークもゲストで入っていた。
 ところで、昼間はともかく、日が落ちると冷え込みがすごい。翌日にかけて、天気予報ではこの冬一番の寒さという情報も流された? ライヴのあと流れ流れて、遭難しそうになりました。プルプルプル。こんな体験はなるべく、ご免被りたい。

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