日本武道館。2日間公演のうちの初日で、満席。スタンド席、かなり横のほうまで客を入れている。サポートはギター、キーボード、ベース、ドラム。過去、おやじに囲まれて実演する感じもあった彼女だが、今回のバンドはそれなりに彼女と近い世代の人たちか。

 7年ぶりの、一般公演とか。前回の2004年のそれを、ぼくは見ておらず。でも、なぜかプロモーション来日をかねての非一般公演は2度(2007年3月21日、2010年1月20日)見ており、あとブレイク間もない彼女のショウをローマで見ている(2002年5月30日)ので、なんとなく彼女のライヴにはそれなりに触れているという気にはなっているな。

 淡いジャジー・ポップ路線から、カントリー味も持つポップス路線に移行、とともに鍵盤ではなくギターを持って歌う曲比率があがり、その後はより現代的なシンガー・ソングライターとしての像を追求している……というのが、ここ10年のおおまかなジョーンズの歩みだ。ウッド・ベーシストで曲も共作していたリー・アレクサンダーとの個人的関係を清算して以降の近2作品は、生理的にダークだったりハードだったりする音像も彼女は採用するようになってもいる。ま、それはアーティストの欲求であり、我々がしのご言うものでもないが、変化することを恐れないその姿勢は賞賛するに値する。だが、“ジャジーなジョーンズ”と、“コンテンポラリーなシンガー・ソングライターのジョーンズ”、どちらを取るかと言ったら、ぼくは前者の彼女を取る。だって、「ドント・ノウ・ホワイ」のころの彼女には代えがない(だから、フォロワーは鬼のように生んだ)けど、後者の彼女の行き方はもっと優れた代えがいると思うもの。残念だけど、いろいろロックを愛好しているぼくは、そう感じる。

 でも、彼女の米国チャート成績はそんなに変わらないので、多くの聞き手はその変化もOKとする人が多いと推測されるし、今回の満場の観客の反応を見ると、シンガー・ソングライター路線もそれなりに歓迎されていると思えた。

 とはいえ、中後半にやったピアノ音色キーボード弾き語りのスタンダードの「ザ・ニアレス・オブ・ユー」(デビュー作の最後に置かれていた曲。キース・リチャーズが大好きな曲で、ストーンズの2004年作『ライヴ・リックス』でカヴァーを披露も。彼がツアー中に突然やると言い出したという)と出世曲「ドント・ノウ・ホワイ」はやはりグっと来たし、お客の歓声もデカかった。とくに、後者は弾き語りであることを活かした、彼女の中の情の沸き上がりを直裁に伝えるものになっていて、かなり揺り動かされた。そして、それを聞くと、彼女の歌声もあの頃から比べると太くなっていると実感。どこか“漂う”感じがその歌声の美点である彼女にとって、それは良い事かどうかは見解が分かれることかもしれないが、なんか自分の足で立っている風情がより前面に出ていて、ぼくはジーンとなっちゃったのだ。

 なお、前座で、彼女のサイド・プロジェクトであるリトル・ウィリーズのギタリストであるジム・カンピロンゴのトリオが登場。25分の演奏時間ながら、受けた感興は2012年6月28日の単独ライヴのときとほぼ同じ。ベーシストはそのときと違う人かもしれない。カンピロンゴは満場の客を前にうれしそう、夢が叶った、なんてMCもしていた。この後、ジョーンズは南米ツアーに入るが、その際の前座はジェシー・ハリス(2012年7月16日)だ。

<今日の、午前中>
 撮影の立ち会いで、南青山・根津美術館に。改築なった後、ここに初めて来た。木々が一杯の中庭やはり圧倒され、文京区の椿山荘の庭を思い出したりもする。もみじの木がすんごくデカい。もう少したつと、とても紅葉がきれいそう。

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