東京ジャズ

2012年9月8日 音楽
 ここのところは有楽町の東京国際フォーラムで開かれている東京ジャズ・フェスティヴァル、今年は向かいのコットンクラブも会場となった(明記していないものは、ホールAにおける公演)。以下、見たアーティストをさくっとあげる。フェスとはいえ出演アーティスト数は過剰に多くはなく、出演時間も重なっていないので、それなりにちゃんと見ちゃいました。

*テイク6
 いまやヴェテランのアカペラ・コーラス・グループ(2005年11月10日)、いろいろと趣向を凝らして、名人芸を披露する。

*ベン・E・キング
 R&B名士(2010年10月5日)は、全16人の日本人ビッグ・バンドが伴奏をつけるなか、ジェントルに歌う。リズム・セクションはJポップ側でも活躍する制作者/アレンジャーの笹路正徳(ピアノ)、高水健司(電気ベースではなく、ウッド・ベースを全曲で弾いた)、山木秀夫(ドラム。2012年8月24日、他)。1980年代あたまのカズミ(2012年3月20日、他)・バンドのそれと同じ顔ぶれだと、一部で話題を呼んだよう。編曲/指揮はトロンボーン奏者の村田陽一(2011年12月20日、他)。ベン・E・キングはかつてビッグ・バンド作を出しているので、それを基本に置くのかと思ったら、演目もそんなに重なっていないし、けっこう新規の譜面が用意されたのかな。この日にやったのは彼、および彼が在籍したザ・ドリグフーズの有名曲が主。ジャズ・スタンダードの「ミスティ」も歌った。蛇足だが、この曲を取りあげる人が多いなか、歌モノではアリサ・フランクリンの1965年のヴァージョン、演奏ものではアーサー・ブライスの1981年ヴァージョンが、ぼくは一番好きだ。しかし、村田による呼び込みMCの情けないこと。ほかにする人、いなかったの?

*バート・バカラック
 次から次へと耳馴染みのメロディアス洗練曲が披露され、改めて名ポップ作曲家の偉業を痛感させられたりして。凄いナ。ピアノを弾き少しだけ歌う御大に加え、7人の演奏陣、3人の女男シンガーを擁してのライヴ。もう少しバンドの編成が大きかったらと思わなくもないが、非があったとしてもすべては曲の良さがカヴァーし、聞き手に甘美な思いを与える。終盤は映画のために書いた曲を連発させたが、そこでバカラックは「ザ・ルック・オブ・ラヴ」(007映画用の曲)を歌う。声は嗄れてボロボロ。だが、それもこの音楽家の蓄積や襞を物語り、聞き手のなかに大きな感慨を残す。しかし、もう80代半ばとは。

*スティーヴン・ロシート(コットンクラブ出演)
 オーストラリアのまだ10代後半のジャズ・シンガー。とっても声量あり、音程も正確。朗々と危なげなく、ジャズ・スタンダードやオリジナル曲を歌う。なんか、その歌の感じやいい人っぽさに、“アメリカン・アイドル”時代のジャズ歌手という所感をとても得る。同行の中年伴奏陣、かなりまっとう。

*小曽根真
 人気ジャズ・ピアニストの小曽根真(2012年8月24日、他)の新作は2作品同時発売で、ひとつはニューオーリンズの重鎮ピアニストのエリス・マリサリスとのデュオ盤。そして、もうひとつはクリスチャン・マクブライド(2009年8月30日、他)とジェフ“テイン”ワッツ(2012年1月13日、他)とのトリオ録音作。で、これはその2つをくっつけた、その5人による出し物なり。小曽根とはバークリー音楽院で同級だったというブランフォード(2010年10月21日、他)や弟のウィントン(2000年3月9日)や四男ドラマーのジェイソン(2009年11月2日)らマルサリス兄弟のお父さんにして、ニューオーリンズ・ジャズ教育の元締め的存在でもあるエリス(1934年生まれ)の生演奏には初めて触れるが、まだ元気そうだな。ちなみに、三男のデルフィーヨはトロンボーン奏者でありつつ、それ以上にジャズ・プロデューサーとして活躍している。

*ジョー・サンプル&ザ・クリオール・ジョー・バンド
 1枚目となる新作が出たばかりが、昨年の来日公演(2011年5月17日)と驚くほど印象は変わらない。フュージョン様式やピアノ演奏に飽きてまんねん的、サンプルの“なんちゃってザディコ”(やはり、一般的なスタイルのザディコをやってはおらず、サンプル流ザディコ風アーシー・ポップと言ったほうがしっくり来る)バンド。総勢、9人。結構顔ぶれも重なっているはずだが、両公演に同行している山岸潤史がその新作に入っていないのは謎。みんなでせえのでやっているとウォッシュボード奏者(アレックス・マクドナルド)の音は聞き取りにくいが、ソロ・パートになると、切れ味たっぷりのなんとも強力な楽器/奏者であることが分る。

*セッション
 メイン級の出演者とリストされ、東京ジャズやるじゃんと一部の層からは評価を高めたオーネット・コールマン(2006年3月27日)の出演が直前にキャンセル。そのため、小曽根真がリーダーシップをとって、東京ジャズ出演者たちによる彼へのトリビュート・ジャム・セッションが行なわれた。ながら、小曽根は冒頭MC(本当に、彼は弁がたつ)でコールマンの曲はたぶんやったことがないと正直に表明する。怖いモノ見たさの気分、たかまる。
 基本となったのは、先の小曽根真の出し物のときに出た5人。このなかで、一番コールマン表現に一言持つのは、ジェフ・ワッツか。彼の「JCイズ・ザ・マン」という曲はコールマン/ハーモロディック流儀を持つものであるから。演目は、一応コールマン曲をテーマに借り、ソロ回しの部分はブルース(4ビート)、そして1コードのファンク(1曲だけ長々とやったその曲は、スライ・ストーンのビートを簡素化したようなものを採用)でつっきる。コールマン表現は“電波”と“飛躍”と“妙な歌心”を抜くとブルースと1コードのファンクが残るので、一応それは理にかなっている。途中からジョー・サンプルも入ってピアノを弾いたり、テイク6が唐突に出て来て持ち歌をアカペラで披露したり。それ、この出し物に潤いを与えていた。
 一番参加者人数が多く、演奏時間も長かった(長過ぎて、次のプログラム開始時間になってしまったので、ぼくは途中退座した)のは、クリスチャン・マクブライドがうれしそうに電気ベースに持ち替えてのファンク曲。そこには、ザ・クリオール・ジョー・バンドのギタリストであるレイ・パーカーJr.(2012年 8月15日、他)や山岸潤史(2010年8月4日、他)、普段は絶対とらない感じのトロンボーン・ソロを延々とった村田陽一(管奏者たちの、まとめ役もやったみたい)、無料ステージに出演していたジャガ・ジャジストのトランペッターのマティアス・アイク(2007年9月18日)、ベルギー人テナー奏者のユリ・ホーニングなども加わった。

*イブラヒム・マーロフ(コットンクラブ出演)
 レバノン生まれ、フランスの音楽大学を出て、そのままパリで活躍しているトランペッターのショウは、もう1人の管楽器奏者(トランペット、ピッコロ、バグ・パイプとかいろいろやる)、キーボード、電気ギター、電気ベース、ドラムという陣容のバンド(みんな、腕がたつ!)にて。そのアルバムは妄想大王みたいな一筋縄のいかないスケールを持っていたが、もっと音数が少ない実演もそれは同様。ジャズからロックまでを自在に横切りつつ、自らの即興性あるインスト中心音楽を送り出す様は、なんか笑かされるとともに頼もしい。でもって、マーロフの吹くフレイズや音色は決定的に中東的な何かをおおいに抱えるものであり、その総体は妙にオリジナル。世の中いろんな人がいるなあという感想を引き出す。只のあんちゃん的な風情を持つ本人以外、バンド員はちゃんとしたいでたちで演奏した。

<今日の、残念!>
 オーネット・コールマンが来日できなかった理由は、ベルギーで食当たりにあい、体調が回復しなかったため。8月9〜11 日に開かれたスウェーデンのウェイ・アウト・ウエストというという野外ロック・フェス(ブラー、ザ・ブラック・キーズ、モグワイ、ボン・イヴェール他が出演)にも出演予定だったが、そのホームページにも<食中毒で寝たきりになり、出演不可。回復を祈ろう、秋にはまたスウェーデンにやってくる>みたいな記載がなされていた。で、回復するかと今回ぎりぎりまで待ったが、×印が出されたよう。現在82歳、少し心配だな。ところで、そのオーネット欠席穴埋めセッションには出なかったが、今回の東京ジャズの出演者でもっともオーネット表現に親しんできたのは翌日出るバルカン・ビート・ボックス(この日は、無料野外ステージでDJセットを披露したよう)のオリ・カプラン(2000年8月15日)ではなかったか。彼、BBB(2008年7月8日、他)を組む前は、NYでフリー・ジャズをやっていたアルト・サックス奏者ですからね。彼の曲は山ほど、空で吹けるはず。また、マティアス・アイク率いるジャガ・ジャジストにコールマン曲をやらせるというのもあったはず。あの面々ならコールマンを通っていて、感化もされているはずだから。

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