へえええー。ミシェル・ペトルチアーニってこういう人物であったのか。そのピアノ演奏にある“これみよがし”の様がぼくの好みではなく(別に、これみよがしを出すのは悪いことではない。というか、音楽に限らず、人にアピールせんとする行為はすべからくこれみよがしの集積と言えなくもない。ただ、ペトルチアーニの出し方がぼくの口にいまいちあわないだけ)、そんなに聞いている奏者ではないが、興味深く見れたな。

 骨がもろく、伸長は1メートルと子供のまま、だが老化はそれなりに早いという障害を背負いつつも、雄弁きわまりないジャズ・ピアニストとして大成したフランス人のミシェル・ペトルチアーニ(1962〜1999年)の生涯を扱った映画「情熱のピアニズム」(2011年、仏/独/伊、103分。11月から一般公開)を六本木・シネマートで見る。監督はマイケル・ラドフォード(1946年インド生まれ、英国で映画の道に進む)。本人がペトルチアーニに興味を持っていたのではなく、頼まれて映画作りに着手したようだが、生前の映像がいろいろとあったことも幸いし、よく作られている。

 本人の演奏やインタヴュー映像、父(南仏で楽器屋をやっていたよう)や兄(ジャズ・ギタリスト)、付き合いのあったいろんなミュージシャン(バリー・アルシュトルが出てきたのが、うれしかった)や関係者の発言映像なんかを編んだ映画だ。音楽性や奏法の分析はほとんどなく、ペトルチアーニの障害を持っていたからこその生き方に焦点をあわせたストーリー展開がされる。ながら、そこで描かれるペトルチアーニの姿がいじけてなく、往々にしてお茶目であるため、暗い感じは皆無だ。まず、驚かされたのは、最初のほうの映像から、骨が弱いにも関わらず、彼がとんでもなく強いタッチでピアノを弾いていたのが分ること。それ、ファンの間では周知の事実であったのかもしれないが、ファンでないぼくにはかなり驚きを与える。事実、演奏していて、骨折してしまうこともあったという。

 初体験は18歳で、普通の若者と同じように悶々としていた、なんて自ら語るように、セックス/おんな好きであったよう。その方面を、奥さんだった人や愛人など複数の女性が証言。だが、ペトルチアーニと付き合いを持ったことを皆肯定しているので(最初の女性は、セックスはうまかったとも発言。男冥利につきますね)、イヤな感じはない。彼と同じ障害を持つ息子も出てくる。この前のボブ・マーリー映画(2012年7月17日、参照)といい、昨年に日本公開されたグレン・グールド映画(2011年10月12日)といい、ファックした相手が風通しよく関係を語り、主役の女癖や性癖をそんなに美化せず浮き上がらせるというのは、今の偉人を扱ったドキュメンタリー映画のトレンドなのかとふと思う。ペトルチアーニは酒も薬も大好きで、どこかで死に急いでいたということも、映画は示唆する。

 演奏シーンで一番好きなのは、彼がアメリカに渡ってそんなにたたない時期、チャールズ・ロイド(2008年4月6日、他)のバンドでの、カラフルなヒッピー野外パーティでの実演の模様。ペトルチアーニはサックス偉人であるロイドの家に居候し、彼のバンドで演奏することで、広くジャズ界で知名度を得たという印象をぼくは持っている。だが、それ以前のロイドと言えば、誰にも負けないジャズの才や閃きを持つにも関わらず、いやある意味そうであったからこそ、彼はヒッピー文化にはまりジャズ界とおさらばした生活(そのかわり、一部のロック界とは付き合いを持った)を求めた人でもある。そして、そんな彼が再びジャズの世界に毅然と戻ってきたのは、ペトルチアーニという掛け替えのない才能と出会い、触発を受けたことによる……という所感もぼくは持っているのだが。今度、ちゃんと検証しよう(それによっては、加筆するかも)。ペトルチアーニは、ぼくが大好きなチャールズ・ロイド(彼は60年代後半に、若き日のキース・ジャレットを顎で使った)をリアル・ジャズの世界に引き戻した怪物くんであったのだよなー。

 これを見たから、ぼくのペトルチアーニのジャズ・ピアニストとしての評価が変わるなんてことはない。だけど、ふむふむと見きった。当たり前だが、いろんな生き方をしたミュージシャンがいる。ああ、人生って、音楽って、世の中って……。

<今日の、電車>
 試写に行くため、たまたま乗った電車が、冷房がきいてなく、送風のみ。暑いが、それでも乗っている人はいる。隣の車両に移ったら、フツーに冷房が効いている。そんなこともあるんだア。1両だけ、冷房嫌いの人のため、非冷房車を置いている、なんてことないよな? 弱冷房車はあっても。以上、15時ごろの田園都市線/半蔵門線にて。そういえば、少し前から東急電鉄は、アルファベットの略号を案内看板に掲げるようになった。TY=東横線、OM=大井町線、KD=こどもの国線といったように。田園都市線はDTと表示されている。それを受けて、田園都市線を道頓堀線と呼ぶ知人がいる。そしたら昨日、童貞線と呼ぶ乱暴なおねえさんがいることを知った。人それぞれ。

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