NYベースのオルガン・ジャズ・ファンク・トリオ(2010年5月28日、他。うち2人は、2011年11月22日にもセッションで来日)の今度の公演はアルト・サックス奏者のカール・デンソン(2001年4月4日、2001年8月3〜5日、2002年7月28日)を伴ってのもの。両者ともジャム・バンド・ミュージックのムーヴメント隆盛でファンを拡大した経緯を持ち、同じボウルの中にいると言えるかもしれない。ただしインタヴューをすると前者はジャム・バンドと言われることを嫌い、後者はそれを肯定する。

 デンソンの来日は久しぶりだが、彼のバンドであるタイニー・ユニヴァースは2000年代前半にフェラ・クティ流れのアフロ・ビートをやらせたら一番巧いなんて言われたこともあり(その後、ザ・オールマン・ブラザーズ・バンドのツアーに入ったこともあった。デンソンが入ったオールマンズの簡便ライヴ盤はいろいろ出ている)、そっちのノリが入るかと思ったら、残念ながらそれはなし。また、デンソンはリーダー作においてはシンガーとしての姿を出すことも心がけているが、歌うこともなし。基本ソウライヴにサックス奏者が普通に入ったというノリでライヴは続いていく。大きな驚きがないのは残念だが、安定した手堅いパフォーマンスを披露。なんか、近くにいた若い女性がサイコーと同行者に言いながらぎんぎんに身体を揺らしていたのが印象的。そういうのに触れると、なんかこっちもうれしくなる。六本木・ビルボードライブ東京、ファースト・ショウ。

 そして、南青山・ブルーノート東京に移動して、リジェンダリーな個性派歌手/ピアニストのモーズ・アリソンのショウを見る。84歳、初来日になるのか? 2010年秋だかに来日が予定されたことがあったが、そのときは健康の問題かなんかで中止になった。50年代からジャズとブルースその他がほつれたようなマイ・ペースのピアノ弾き語り表現を志向し、我が道を歩んで来ている人。真性モッズのジージィ・フェイム(2009年9月2日、他)も米国粋人ベン・シドラン(2010年7月28日、他)ももちろん彼の影響からは逃れられない。他にも、同業の信奉者/フォロワーは山ほどいるはずだ。

 けっこう元気そうにステージに登場したアリソンは、見事なほどに無勝手流。へーえ。気ままに鍵盤に指をはわせ、のんきな声をのせる。曲選びもまったく気分一発なようだ。なんでも、メンバーには曲目ではなく、番号でやりたい曲を伝えていたという。縦ベース奏者とドラマーもかなり年長の方々で、すっと一緒にやっているのだろう、そんなアリソンに無理なくついていく。細心のサポートを見せるドラマーにヤラれた人も少なかったようだ。

 どこか米国の深層ともつながるシンプルな歌を音痴気味の歌で紡ぐ、ということで、ぼくは望外にランディ・ニューマンのことを思い出したりもした。ま、どっちにしろ、無形の物言い〜気の遠くなるような滋味や奥行きあるストーリー・テリングがあったということです。あ、それから、彼の新作は2年前に出た『ザ・ウェイ・オブ・ザ・ワールド』(アンタイ)はジョー・ヘンリー(2010年4月2日、同4日)のプロデュース作だが、この日のさりがない自然体実演に触れると、うまく質感が立った商品に昇華されているんだなと思った。
 
<今日の、ライヴ後>
 さすが巨匠、こんなに知り合いと顔を合わせた公演は初めてかな。ぼくが座ったテーブルに続々一人で来ていた知人たちが座っていき、大笑い。そして、そうじゃない人とも終演後には流れて、延々酒宴。ぽんぽん、ワインのボトルが開いていった。お開きになり、久しぶりに飲んだ中川五郎さん(2005年6月17日、他)とタクシーに乗ったはいいが、飲み足りなくて、一人で途中下車するぼく……。夜中でも山手線って貨物列車が通るのを初めて知った。

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