見た順ではなく、逆順で記す。後に見たのは、フランスの自作派ソウル歌手(1984年生まれ)。みんな、ウキッキッキだったんじゃないか。南青山・ブルーノート東京、セカンド・ショウ。

 会場内は、年有数と言えるだろう混み具合。2年前に仏ユニヴァーサル(レーベルはモータウンを用いる)から出したデビュー作はキャラを持つ温故知新型ソウル作となっていて、少し話題にはなった。だけど、日本盤は出なかったし、少なくても我が国においては派手な露出はなかったと思われる(ぼくはといえば、bmr誌で輸入盤レヴューを書いただけ)が、この大盛況はすごい。直近になって予約が急に伸びたようだが、何がプラスした?

 でも、雨のなかやってきた人たちの判断はまこと正しいというしかない。音楽的にも、視覚的にも充実し、楽しみどころたっぷりの実演を見せたのだから。彼はユニヴァーサル盤の後にインディからライヴDVD/CDをリリースしているが、本人たちも実演には自信をもっているんじゃないか。そのバンドは、ギター、キーボード、ベース、ドラム、トランペットとバリトン・サックス(こんな持ち替えをする人は初めて見た)、アルト・サックスに加え、男性サポート・ヴォーカルが2人という内訳。コーラス陣とベーシストはアフリカ系、彼らはみんなスーツ基調、コーラスの一人は半ズボンにネクタイ。

 そして、なんか人なつこい持ち味を振りまく当人は蝶ネクタイ&サスペンダーを身につける。歌う3人の息のあったアクションに会場は即わき、2曲目から客はみんな立ち上がる。早っ。繰り返すが、ヴォーカル陣のフリや絡みはなんとも魅力的。それに触れると、ソウルのヴォーカル・グループを趣味でしたくなる。

 先に書いたように、彼のやっていることは温故知新型表現ではあるのだが、いろんなソウル表現を俯瞰し、それを自分の持ち味を通した娯楽表現として打ち出せていて、それは輝いていて、訴求力大。そのとっぽいキャラクターはノーザン・ソウルのほうが似合うと思われるが、ヴォーカルの味やホーン音などはサザン・ソウル色をしかと持つ。そして、そこからは、ソウル・ミュージックを生んだ米国の外で生を受けたからこその、切実なモワモワのようなものも浮き上がるのだから、いい気分にならないはずがない。

 バッキング・コーラスの二人にもリード・ヴォーカルをとらせる箇所があったが、それぞれ歌ったのは、ザ・テンプテーションズの「マイ・ガール」とプリンスの「キッス」だった。そして、それに続いて本人が歌ったのは、レイ・チャールズの「ホワット・アイ・セイ」。もちろん、その際は、熱烈なコール&レスポンス大会となる。ライヴを終えて、オレたちやったぜみたいな感じで、ファイヴ(手のひら)や拳を会わせ合うステージ上のメンバーの様がまた良い。これだけ受けたんだから、また来る機会が与えられるはず。

 その前は、六本木・ビルボードライブ東京で、大御所ジャズ・ピアニスト(1941年、オハイオ州生まれ)のソロ・ピアノ公演を見た。フリーダム、運営にも関わったストラタ・イーストからアルバムを出した60年代後期〜70年代中期は、フリー・ジャズ系ピアニスト(一時、電気キーボードに向かったこともあった)として気を吐いた御仁で、ECMも73年に彼のアルバムを出した。90年代はコンコード・ジャズやスティープル・チェイス(そのころ、欧州に住むようになった?)からいろいろ作品を出していることが示すように、落ち着いた作風を見せるようになった。

 奇麗にスーツを着こなす(←エスタブリッシュされているノリ、おおいにあり)カウエルは見た目だけでいいじゃんと思わせる。MCはピアノから離れ、中央のマイクに向かって立って、きっちり行う。それも、マルと思わせる。

 曲は自らの70年代上半期の曲を多く演奏したようだが、MCの際に曲名を忘れても、指さばきは譜面無しで闊達、確か。ほうと頷いたのは、タッチの強さとリズミックさ。そして、左右の運指の微妙なバランス〜噛み合いの良さ。それゆえ、ストライド・ピアノっぽいなと思わせるときもあり、曲想が奇麗でも上滑りしない。とともに、そうした演奏は、ジャズはアフリカン・アメリカン・ミュージックなのだときっぱり示す部分があって、ぼくは頷きまくるしかなかった。彼なりに、アート・テイタムに捧げたピースもあり。やはり、触れて良かった。

 アンコールは親指ピアノ(小さなボディの裏に液晶表示板があって、下に流れる反復音もそこから出ていたよう)をポロポロ弾く。

<今日の、ギタリスト>
 カウエル公演終演後、声をかけられる。振り向くと、orange pekoeの藤本一馬(2011年8月22日)くん。相変わらず、笑顔が人なつこい。バラケ・シソコ&ヴァンサン・セガール(2011年6月6日)とかアブドゥール・イブラヒム(2011年8月7日)とか、彼とはちょい癖ある個性派ミュージシャン公演のときにばったり顔を合わせたりする。確か、orange pekoeも近くここでライヴをやるよなと思って問うと、明日であるという。管や弦も入った特別編成で、それ用のアレンジのため譜面と向かいっぱなしであったそう。ごめんね、明日は別な用事が入っていて。

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