ここのところ、けっこう来日しているニューオーリンズR&Bのメロウな大才人(2006年5月31日、2006年6月1日、2007年10月21日、2009年5月29日)、六本木・ビルボードライブ東京。セカンド・ショウ、

 ソウル・フュージョン期のラムゼイ・ルイス(2010年9月28日、他)がやりそうなインスト曲で、実演はスタート。ピアノを弾きながら歌う本人に加えて、前回来日と同様のギター、電気ベース、ドラム、サックス。さらに、今回はパーカッション奏者も付く。で、ショウに触れているうちに、過去に増して、トゥーサン御大が溌剌なのを確信する。ピアノの指さばきはとても切れがあり、節目のフレイジングはばっちりテンションがこもり、歌声も良く出ている。それは彼がいい状態でロード(ツアー)を続けているためであるだろうし、バンドもよりこなれているのもプラスしているだろう。そういえば、ギターのポーシェさん、今回は曲によってはトロンボーンを吹いたり、サンポーニャみたいな音色の笛を吹いたりも。ジョー・ヘンリー(2010年4月2日、4月4日)制作のインスト・アルバム『ザ・ブライト・ミシシッピー』新作からも、セロニアス・モンク作のタイトル曲や大トラッドの「セイント・ジェイムズ・インファーマリー」やシドニー・ベシエの「エジプシャン・ファンタジー」をやるなど、今回はインスト比率は高かったとも言えるか。当然、編成も違うから、アルバムとはアレンジ/曲趣も異なるわけだが。

 というか、「スニーキング・サリー・スルー・ジ・アリー」(故ロバート・パーマーのヴァージョンでも知られますね)をはじめ耳馴染みのヴォーカル曲でも、自由自在な感じは随所に。本編最後にはニューオーリンズ・スタンダード「ティピティナ」を弾きだしつつ、どんどんフリーフォームでいろんな曲断片〜いくつものクラシック曲やサウンド・オブ・ミュージックの「エーデルワイス」やデイヴ・ブルーベックの「ブルー・ロンド・ア・ラ・ターク」や中村八大の「スキヤキ」他〜を差し込む演奏にも、彼らしさは横溢。アンコールは意外にもブルース曲だったが、それも途中からいろいろな差し込みがなされる。
 
 90分の、地域に根ざした、名人芸の余裕の開示……。ぼくが見た彼のショウのなかで、一番力があった。終演後、しっかりと座ってそのパフォーマンスを堪能していたお客さんたちが自然にスタンディング・オヴェイション、いい光景でした。

 <洒脱や一握りのエレガントさ>と<ブラック・ミュージックをそれたらしめるもの>を、一番あわせられる御仁。であるとともに、胸のすくポップネスも無理なく持つ人。だから、ポール・マッカートニーが大ファンであるのもよく解る。彼は自分の大パーティにトゥーサンを呼んだり、『ヴィーナス・アンド・マース』でピアノを弾かせていますね。トゥーサン(38年生まれ)とマッカートニー(42年生まれ)の共演作を切に希望! それはトゥーサンとエルヴィス・コステロ双頭作の6倍は素晴らしい仕上がりになるはずだ。

<今日の着物>
 公演後、例により、流れる。行った先が貸し切りだったりで、なら渋谷に行きましょうとなる。駅には着物姿の若い女性がちらほら。同行者に成人式帰りだよねと言われて、やっと了解。なんか、気張った新年会帰りのおねーちゃんたちかと、ぼくは思ってしまってた。オレ、成人式のときはまだ浪人の身分だったが、それは別として、かったりぃと感じて、成人式に出ていません。親もスクエアなくせにそういう範疇ではクールだったのか、出ればという類いのことは一切いわなかったな。渋谷ではもっとキモノ・レイディを目にする。華やかなことはいいことです。

<今日のTV番組>
 ニューオーリンズ〜TV番組といえば、その名も「トレメ」というのが米国HBOで全10話放映された。大御所ブラス・バンドの名にも冠され(2003年10月15日)、トロンボーン・ショーティ(2010年12月13日、他)も育った、ニューオーリーンズ・ミュージックにとっては重要地区であるトレメを舞台としカトリーナ・ハリケーン後を描く、TV番組(らしい)。トゥーサンとアーマ・トーマスの共演曲も含むサントラも出ていて、その出来も番組への期待を高める。シーズン2も制作されるというので、本国でも好評だったのだろう。見てえ。
 一度、昨年のフジ・ロックの項で引用しているが、またトロンボーン・ショーティの発言を紹介しておく。「そこ(トレメ)は見事に音楽に満ちあふれる場所だったが、ハリケーン後はそうではなくなってしまった。避難した皆が戻ってこようとしたとき、家賃が高騰して戻ってこれなくなってしまったんだ。結果、トレメの文化的継承は切れてしまった」

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