ベン・E・キング

2010年10月5日 音楽
 この晩は通受け極まりない個性派白人アクト公演もあったが、1938年生まれの大御所R&B歌手を見に行く。70歳越え、うぬ、そろそろちゃんと見ておいたほうがいいか、と。かたや、40歳前だし。六本木・ビルボードライブ東京。ファースト・ショウ。キングさん、最後に来たのはいつなんだろう?

 バンドは、二人の女性コーラス、ギター、ピアノ/キーボード、ベース、ドラム、サックス、トランペットという布陣。コーラスはアフリカ系のビッグ・ママ体型の比較的若いお嬢さんたち。演奏陣はアフリカ系の人はおらず、分厚い譜面を前にニコニコ弾いていた鍵盤奏者は日本人、もしくは東洋系の人(事前に名が出ていて人とは別のよう)。冒頭、2曲は延々バンドによる演奏。それには、ちょい嫌なキブンになった。高齢でそんなに歌えなくなっているからこそ、バックの演奏で水増ししているんではないか、と……。

 が、本人が出てくるや否や、それは杞憂であることを一発で感じる。何か、出てきた風情、客を見る余裕にしてショウマンシップに満ちた眼差しだけで、即、「おお本物、彼は間違いない」てなことを皮膚感覚で感じさせられちゃったもん。綺麗にスーツを来た彼は坊主頭になっていた(ハゲという感じはない)が、太ることもなく、元気そうだ。ショウはブルース系スタンダード「レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール」からはじまったが、実際ちゃんと歌える。それ、レイ・チャールズも歌っていたが、続くは彼の「ハレルヤ・アイ・ラヴ・ハー・ソー」。ここらあたり、伴奏は結構ジャジーだが、彼は90年代後期にジャズ・レーベルのハーフ・ノートからビッグ・バンド調伴奏がついたリーダー作を出していたから、無理はない。「ハレルヤ〜」はそこで歌ってもいましたね。

 彼は名コーラス・グループのザ・ドリフターズのリード・シンガーを勤め、60年以降はソロとして活動するようになっているが、「ラスト・ダンスは私に」とか「ディス・マジック・モーメント」とか「渚のボードウォーク」とか、同グループのヒット曲(彼が出て以降のものか)も披露。一方で、R&Bの広義の財産を愛でると言った感じで、あまり彼と繋がりを持たない有名曲を歌ったりも。実は、ぼくが一番高揚したのが、ウィルソン・ピケットで何より知られる「イン・ザ・ミッドナイトアワー」(これも、彼が出て以降のザ・ドリフターズは取り上げているが)。その弾む感覚を持つ歌は60年中期のネオンきらめくNYブロードウェイの華ある風景をすうっと見させるような誘いがあって、ぼくは震えた。本当、見に来て良かったァ……。途中からは少し喉に疲れが見られるようになった気もしたが、ちょっとした見栄の切り方や客あしらいの上手さはずっと維持されていて、感服。やっぱし、偉大なR&B/ブラック・ミュージックの得難いマナーを存分に感じてにんまり。もちろん、自身のヒット曲「スタンド・バイ・ミー」も歌う。で、(その曲を見目麗しくカヴァーした)ジョン・レノンの誕生日がもうすぐなんだなと不意に思い出した。

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