お、デュプリー。久しぶりだな。ソウル・サヴァイヴァーズ名義では近年もけっこう訪日しているはずだが、同郷先輩(テキサス州フォートワース)のキング・カーティスのバンドに入って60年代アトランティック・ソウルを支えた、この個性派ギタリストをぼくが見るのは、2002年6月25日(極東ワールド・カップの期間中でした)以来。サポートするのは、コンパス・ポイントに住む前(70年代初期〜中期)の故ロバート・パーマーに重用されたことで知られるジェイムズ・アレン・スミス(キーボード)、この7月にはリーダーとしてブルーノートに出演していたロニー・キューバー(サックス)、デュプリーも在籍したスタッフのリーダーだったゴードン・エドワーズ(ベース)、やはりサポートで6月にブルーノートに出演しているバディ・ウィリアムズ(2009年6月17日、他)という面々。キューバー以外はアフリカ系。あ、キューバーとデュプリーはキング・カーティスのザ・キング・ピンズの大人な発展を主目的としたザ・ガッド・ギャング(80年代後期にスティーヴ・ガッドが組んだ、“ポスト・スタッフ”的なバンド)の仲間でもありましたね。

 ちょい遅れ気味に、面々は出てくる。え、と少し息を飲む。というのも、エドワーズは杖をつき、デュプリーは機械と繋がったチューブを鼻に差し込んでの登場ではあったから。やはり、痛々しい。と、思うのもつかのま、デュプリーの緩〜いMCもあり、スーダラした乗りがすぐにぽわーんと出てくるわけだが。手には(多分)バーボンのロック、デュプリーは途中でおかわりも要求した。飲んでいたのは、彼だけだったな。90年代前半に取材したとき、(NYから)故郷のフォートワースに戻ったんだと言っていた彼だったが、今はどうなんだろう。確かに90年代に入る頃からデュプリーの参加セッションは激減したはずだが。そんな彼の最後の方のビッグな仕事は、マライア・キャリーの『エモーションズ』(91年)のレコーディング参加。どういう経緯で入ったのとそのとき聞いたら、ウィル・リー(2009年8月19日、他)からの連絡だったとか。そして、スタジオに行ったら「(デュプリーがバッキングをした)アリサ・フランクリンの雰囲気を求めたくて、あなたを呼びました。よろしくお願いします」と、本人から言われたそう。
 
 オープナーはエディ・ハリスの「フリーダム・ジャズ・ダンス」。で、ぼくはいささかびっくり。そして、引き付けられる。あのグルーヴィにして複雑なテーマを持つ曲を見事に彼ら流に解釈してやっていたから。定型コード進行のもとちんたら楽器音を流すのではなく、ちゃんと自分たちの意義を理解し、意気と共に重なりあうのダという意思にそれは満ちていた。な〜んて、実は来日時に毎度手癖で披露するおなじみのレパートリーだったりするのかもしれないけど。でも、間違いなく、デュプリーはイケてる。8年前に見たときより確実に引っかかりを持ってぼくを引き付けたのは確か。オーイエイ。何度もぼくは演奏中に、ココロの中で喝采しました。

 途中で1曲、もろなスロウ・ブルース。良い、味ありすぎ。7分目で弾いているのもグっとこさせ、ここにしっかりと伝統を抱えたオーセンティックな大人のブルース・ギター弾きがいると感激できた。また中盤には、ザ・ビートルズの「サムシング」を演奏したりも。いい感じで開かれるそれを聞いて、ぼくはこのジョージ・ハリソン作の曲を一瞬ジョン・レノン主導の曲かと勘違いしちゃった。だって、なんか掛け替えのない心の欠片が一杯そこに見えたんだもの。ゴードン・エドワーズのことをレノンが気に入り、かつて起用していたことを思い出していたからかもしれないな。エドワーズは1曲、お茶目に歌う。それ、スタッフのアルバムに入っていたっけ?

 終盤、デュプリーがリクエストはとかMCをしていると、奥からマネージャーだろうおばさんが「ウォッチング・ザ・リヴァー・フロウで、とっとと締めなさいよ」みたいな感じの声をあげる。無視して、また少し話した後、ボブ・ディラン曲だよと言って、ザ・ガッド・ギャングの定番曲だった、その「ウォッチング・ザ・リヴァー・フロウ」を悠々演奏。熱い拍手。それでおしまいかなと思ったら、デュプリーは声援に応えるようにもう一曲演奏しようとし……そしたら、また件の女性が「なにやろうとしてんの。ケツかっちんの時刻を8分も過ぎてるんだから、もう駄目よ」とか、わめく。が、彼はそんなこと知るかといった感じ(にやりと腕時計を見たりも)で、やはりザ・ガッド・ギャングでやっていたザ・クルセイダーズ(2005年3月8日)がオリジナルの「ウェイ・バック・ホーム」を、まさにクロージングのテーマ曲のようにおおらかに演奏しはじめる。その瞬間におばさん、「オー・マイ・ガッド」と嘆く。あはは、最高。客が喜んでくれるならオイラはそれに応える、といったような澄んだ音楽家侠気をぼくはそこにおおいに見ちゃったナ。素晴らしい! でも、楽屋に戻り、彼は怖いマネージャーにこってりしぼられたんじゃないだろうか(←でも、暖簾に腕押し、かな)。六本木・ビルボードライブ東京、ファースト・ショウ。

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