来日したら万難を排して見に行きたいと思わせる、プログレッシヴR&Bの才女がジョンソン(2004年7月1日、2008年5月18日)だ。前回リーダー公演と同様(奏者は異なるよう)にキーボード、ベース、ドラム、女性バッキング・ヴォーカルを従えてのもの。ながら、あららら。途中にブルースと言ってやったゴスペル臭も持つスロウの1曲だけはキーボードを弾きながら歌ったが、あとは中央に立ってシンガーに専念。それだと、先の2回の自己名義のショウのときとはイメージが大きく変わって、もっと明快なソウルっぽさが前に出る。バンドをぐいぐい引っ張って行く辣腕ぶりやアートという名のタイト・ロープを巧みに渡っていくような先鋭性は大きく後退していたが、これはこれでアリだろう。それから、今回そうかと思ったのは、ジョンソンにけっこう綺麗な人という印象を得た事。年齢も前より若く感じたし。綺麗なのは補助歌手も同様で、共に足首も細い。まあ、前はミュージシャンシップの迸らせ具合が壮絶でルックスまで気にする余裕が当方になかったということか。←タハハ、こういう表面ととのえたような記述はよくありませんね。

 ルーファスやマーヴィン・ゲイのカヴァーも披露。以前だったら、やっていなかったかも。そういうのに触れても、以前より判り易く、親しみ易さを出そうとしているのが判る。それから、ダリエンというジョンソンのリーダー作にも参加しているドレッド・ロックスの柔和な男性シンガーが途中に出てきてデュエットを噛ますとともに、2曲で歌とラップでフィーチャーされた。その際にジョンソンはフロントの座を譲って横に置かれたキーボード前に座ったがいっさい弾かず。バンドの面々もそうだが、彼は20代かな。全員、アフリカ系でプレイヤーたちは確かな腕を持っていた。丸の内・コットンクラブ、ファースト・ショウ。そして、南青山・ブルーノート東京に移動。

 こちらはスター・ジャズ・ドラマーと言えるだろう、ハーヴィ・メイソン(2002年8月11日。触れていないが、トム・スコット&LAイクスプレスとして出演)がリーダーとなり、彼が録音参加したハービー・ハンコック(2005年8月21日、他)の73年転機作『ヘッド・ハンターズ』のノリでライヴをやっちゃいますというもの。「カメレオン」とはシングル・カットもされた印象的なリフを持つ同作のリード・トラックだ。

 メイソン、いい根性してんじゃん。とは、少し思うよな。だって、ハンコックの『ヘッド・ハンターズ』ノリのアルバムは『スラスト』とライヴ盤『フラッド』とCBSコロムビア盤が続き、好評を得てハンコック抜きのザ・ヘッドハンターズ(こちらは冠詞がついて、表記が1ワードとなる)もアリスタから2作品を出しているものの、メイソンは73年の『ヘッド・ハンターズ』1作のみで脱退。同作のヒットで新進敏腕ドラマーとして多大な注目を集めた彼は売れっ子スタジオ奏者として仕事を受けまくりつつ、やはりアリスタとソロ契約を結ぶわけだ(その76年第一作にはハンコックも参加しているので、喧嘩して出たとか言う事ではないはず)。というわけで、そのオリジナル奏者はメイソンであるもの、より長い期間に在籍しそのサウンドをアイデンティファイしたドラマーは後任のマイク・クラーク(2002年3月12日)と言えるはず。不動のベース奏者であるポール・ジャクソン(2008年6月12日、他)とのコンビネーションもそっちの方が良かったように思えるし。

 今回の顔ぶれで、オリジナルであるのはメイソンと打楽器のビル・サマーズ(2002年8月2〜4日、文中では触れてないが、自己バンドのロス・オンブレス・カリエンテスでの出演)。そこに、リードのベニー・モウピンに変わってマイルス・デイヴィスやマッコイ・タイナー(2008年9月10日、他)との絡みで知られるエイゾー・ローレンス、ハンコック役には鍵盤のパトリース・ラッシェン(2005年6月20日)、電気ベースのポール・ジャクソンに変わってジミー・ハスリップ(2009年3月23日、他)という奏者たちが重なる。

 アンコールを含めて6曲演奏し、うちヘッドハンターズのナンバーは4曲(『ヘッド・ハンターズ』から「ウォーターメロン・マン」と「カメレオン」と「スライ」←それは、スライ・ストーンから取られた。『スラスト』から「バタフライ」)。やっぱり、偉大な遺産というしかないな。彼らは既知感をうまくくすぐりつつ、個性ともつながる手癖をまぶして重なり合い、質量感たっぷりの、ジャジーなブラック・ファンク表現を送りだす。先に見たジョンソン公演の奏者たちやるナと思っていたら、こっちのほうが余裕でよりざっくり噛み合っており手応えが太い。サマーズのちょっとした演奏はさすが(終了後、彼が演奏でもちいたビール瓶をもらおうとする女性がいて、それに応える様もいい感じ)だし、ジャクソンと水と油の持ち味を持つはずのハスリップも意外に好演し、ローレンスは我が道を行き、メイソンの叩き口はきっちりリズムやキープしつつかなり歌う感覚を持つ。うぬ、ちゃんとした米国奏者の質は高いというしかない。とともに、やっぱしハンコックのヘッドハンターズ表現は素晴らしい。まあ、それは思い入れの度合いによるだろうけど。

 メイソンは60年代後期にバークリー音楽院に通い、同じ時期に日本から留学していたのがジャズ・ピアニストの佐藤允彦。確か彼が語っていたと記憶するが、そのさい同期に凄く綺麗なブロンドのフルートを専攻する女子学生がいて、誰が落とすのかと皆思っていたところ、射止めたのは学生のなかでデキる奴と一目置かれていたメイソンだったのだそう。そんな彼も今や、ルックスは巨漢の月亭可朝になっちゃいましたが。

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