明るい場内に笑顔で出てきた彼女は、赤のノースリーブでミニの軽装ドレス。お、可愛い。なんか、キャピっとした風情も伝わってきて、それはどこか深読みを誘いもする音楽性とは相容れないもの。ブロンドですらりとした体躯、2階席からは相当にイケて見え、モデルですと聞いたら信じちゃうんじゃないか。なーんてことも、外見だけでうれしくなっちゃたぼくは思った。米国のハープを弾き語りする、通受けの20代シンガー・ソングライター。来月に出る彼女の新作、ドラッグ・シティ発『ハヴ・ワン・オン・ミー』はなんと大作3枚組だ。公演中、パフォーマンスをするのが嬉しくてしょうがないという感じを彼女は終始出していたが、純な“音楽のムシ”でもあるんだろうな。

 会場は、早稲田の奉仕園スコットホールという所。キリスト教の施設で、クラシックなそこそこ古そうな、生理的な温かさも持つ煉瓦外装の教会でのパフォーマンス(だから、そこの設置照明の都合で、ステージだけではなく客席側も演奏中明るい。最初は少し戸惑ったけど、でも、それもいいナと思えた)。トイレは建物内にないそうだが、椅子は余裕を持って配置されてもいて、たまにポップ系公演が行われる品川教会(2003年11月27日、2006年5月31日、2007年8月29日)より、ぼくはこっちのほうがなんとなく好印象かも。そんな場所でやるこの日は追加公演(150人限定とのこと)で、ソロ・パフォーマンスという触れ込みだったけど、冒頭の2曲を一人でやったあとは、同行メンバーである弦楽器奏者(電気ギター、バンジョー、縦笛など)とドラマー(スティックは用いず、手かマレットでやんわりとアクセントを付けた)が出てきて、とても控え目に主役に寄り添う。前日の本公演はどうだったんだろ?

 彼女が奏でるハープは、ぼくが身近に接しているスコティッシュ・ハープ(2005年2月1日、2008年11月9日、2009年12月6日)と比べるととても大きいと思わせる。これがクラシックで用いられるスタンダードな物なんだろうな。優美にして深淵、と言いたくなる音色が放出される。で、記憶の底にあるひっかかりを反芻するかのように、無数の弦音をたぐり寄せてゆったりと歌を乗せていく様はなるほど独自の味あり。それ、時代や固定した様式の狭間を飄々と泳ぎつつ、自分の足跡をイマジネイティヴに残していく、と言いたくなるものでもあるか。歌い込まれた感じもあるアルバムを聞くと、歌のテイストがビュークに近いと思ったりもするが、この晩のほんわかした歌い口と我の柔らかさに触れると、そうはあまり感じず。途中の数曲はハープから離れて、グランド・ピアノの弾き語りをする。そうなると、普遍性指数が上がる。フツーにいい、シンガー・ソングライターじゃないかと実感できる。とかなんとか、場の設定もあり、なかなか得難い公演ではないかという思いを得た。

 そして、南青山・ブルーノート東京に向かい、南部ソウルのアイコンであるスタックス・レコードの屋台骨を担ったレジェンダリーなオルガン奏者である、ブッカー・T・ジョーンズ(2008年11月24日、2009年7月25日)の実演を見る。30代だろう東海岸出身の白人のギターとベース、西海岸出身の黒人のギターとドラマーがサポート。それ、昨年のフジ・ロック出演時と同じ顔ぶれということだが。グラミー賞のベスト・ポップ・インストゥルメンタル部門を受賞したロッキッシュなところもある『ポテト・ホール』(アンタイ)のりの演奏で、その新作曲や往年のMGズ/スタックス系ナンバーが送り出される。ギターの演奏はときに乱暴と思わせるところもあった。

 今回のぼくの興味は、ブッカー・Tが歌うか否か。だって、上手いわけではないが、フジ・ロックで見たときに歌って、けっこういい味出していたから。そしたら、途中で、中央に出てきてギターを手にし(!)、4曲も歌った。内訳は、MGズがバッキングしたアルバート・キングの67年出世曲「ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン」(ウィリアム・ベルとブッカー・T・ジョーンズの共作)、サム&デイヴの「ホールド・オン」(ドラマーがラップをかましたりも)、オーティス・レディングの「ドッグ・オブ・ザ・ベイ」、昨年エミ・マイヤー(2009年1月29日、2009年6月30日、2009年7月26日)とクール・ワイズ・メンが(2009年5月30日)が一緒にCF曲用にカヴァーしたブッカー・Tの異色フォーキー曲(?)「ジャマイカ・ソング」。

 弾く鍵盤はハモンド・オルガンだけ、それを右手主体で一筆書きのように彼はあっさりと奏でる。MGズのなかで唯一大学に進んだ人(確か、音楽専攻であったはず)で、当初は学生をしながらスタックスのハウス・バンドのMGズ活動をしていた人物あり、奥さんは白人で(最初の奥さんは、プリシラ・クーリッジ)……。そんなブッカー・Tに接してうれしいのは、その外見。劣化が少なくて、いい音楽人生を歩んでいるんだろうなと思えます。

 祝、ニューオーリンズ・セインツ、スーパー・ボウル勝利!

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