カエターノ・ヴェローゾ(2005年5月23日)が流されるなか、バンハートはさりげなく、本当にさりげなく前座に出るバンドのように、他のバンド・メンバーとともに出てくる。手には白ワインが入っているだろうグラス。そして、くだけた感じで、演奏前にメンバー紹介をする。どーにもこーにも、気負いまったくなし。そうした一連の振る舞いに、彼のリヴィング・ルームに招かれた気持ちになった。と、書くと少し大げさか。でも、会場に終始あったのはそんな気安い雰囲気だよな。代官山・ユニット。

 少ししか見れなかったのでその際の項では触れてないが、06年のサマーソニックのビーチ・ステージに出てきたときは皆ひげ面長髪で暗い生理的にラフな会場と相まってもろに60年代からタイム・スリップしてきたような感じを受けてうひょーと思った記憶があったけど、今回はメンバーが変わっているのかもしれないが、外見上の“イブツ”度数は減じている。ギター2人、ベース(セミアコ・タイプのそれを弾いていた)、ドラムという編成。ときに手ぶらで歌う曲もあったが、バンハートも多くはギターを出にして、トリプル・ギター編成だァ。うち、一人の一番マジメそうな顔をしたギタリストはブラジル出身とか。自身のことも、生まれはテキサス州なくせに(育った地である)ベネズエラ出身と紹介する。

 思うまま、胸がすくぐらいに、天然のパフォーマンス。ときに、大仰なアクションを取ったりもするが、それはなんとなく、往年のボブ・マーリーを思い出させるか。レゲエ調あり、オールド・ロック調あり、ソニック・ユース的局面あり、ラテン調あり。中盤には、生ギター弾き語りパートもあり(キーボードを弾きながら、歌うのも1曲)。ニューヨーク・ドールズにいたジョニー・サンダースの79年曲「ユー・キャント・プット・ユア・アームズ・ラウンド・ア・メモリー」をカヴァーしたりも。でもって、各メンバーたちの前にはマイクが立てられ、実際コーラスを彼らは付けたりもするのだが、俺たちゃ仲良しファミリーといったノリも濃厚に、他のメンバーも1曲づつリード・ヴォーカルを取る。へえ〜。後半には、同行スタッフがテルミンを扱い、乱暴にサイケ度数を高めるときもあり。

 いや、見事なくらい子供のように嬉々として、いろんな事にあたる。そこには作為も、受け手の思惑を意識するような邪心もなし。そのすこーんと抜けた様には、すごいなアンタ、と思わずにはいられず。でも、だからこそ、間違いなく見事なほどの風通しの良さやサバけた訴求力が生まれる。それゆえ、彼の表現は年代や地域性も飛び越えた、開かれててしなやかなアシッド要素を発する。……天然、ばんざい。

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