ジョン・スクワイア(2003年2月20日)は90年前後にロック界で一世を風靡したザ・ストーン・ローゼズのギタリストだった人物。なるほど、ローゼズ時代からアルバム・ジャケットのアート・ワークを手がけていたわけだが、今はモダン・アートの作り手のほうに力を注いでいるのか。個展をやり本格的にアーティスト活動をはじめたのは04年とのこと、なるほどラストとなるソロ・アルバムは04年の発表。彼のホーム・ページを見たら音楽のことは一切のっていなかった。

 会場は、原宿・TOKYO HIPSTERS CLUB。キャンヴァスや特殊な紙(22×30〜34×34のサイズ)に油絵の具などで描かれた(それは、版画的な手法のような感じで描かれているように、素人目一瞥には思えた)ものが26点、制作年度はどれも2009年で、一応共通するモードや手法のものが並んでいる。他の個展での展示物はもっとドロウイングっぽかったりもするので、時期によっていろんなことを試みているのだろう。“don’t talk to strangers”とか”jet”とか“angle poise”とかいろんなタイトルが付けられたそれらは、19万円弱から82万円弱の値付け。うち、プリント売りしているもの(25点限定)もあって、それは37.800円なり。また、Tシャツも販売していた。

 この日はプレミアで、会場には当のスクワイアもマンチェの飾らないお兄さんという感じでいた。この”Negative Afterimages"と題された個展は、12月6日まで開かれている(無料)。

 今週はけっこう寒くなり、雨も降ったり。この日の午前中はびっくりするぐらい風が強かったが、午後からは晴れて、温かい。南青山に移動中、汗ばむ。そして、南青山・月見ル君想フ。

 ボストン在住のデーモン・クルコウスキー(生ギター、歌)とナオミ・ヤン(歌、キーボード。今回、ベースは弾かなかったよな)……ギャラクシー500のときはリズム・セクションを組んでいた男女のパフォーマンスを見る。二人に加え、米ドラッグ・シティと延々契約している日本アシッド・バンドのゴーストの栗原道夫が響くエレクトリック・ギターで加わる(途中で、少し抜ける)。前回の来日公演(2008年1月21日)も両者はシェアしていたし、00年にサブ・ポップから共演アルバムも出しているし……ということで、その重なりは自然にしてとても効果的。また、フルート奏者と各種リコーダーを担当する日本人男性二人が加わるときもあった。彼らも譜面などを置くこともせず無理なく重なっていたけど、そこそこリハやっているのかな。

 いろいろと思慮が施されたアルバムと違い生の場で開かれるその簡素な表現は、乱暴に言ってしまえばあっけないほどフォークである。刺激やデコボコの感覚はほとんどないワビサビ表現であり、グルーヴもない。本来ならそれって、けっこうぼくは苦手とするほうのポップ・ミュージックのはず。なのに、その余韻にほんわかーと浸れちゃうのは、80 年代後期オルタナ/インディ・ロックを支えた精神や態度の無理のない行方があるからだし、もっと言えば、現在の彼らが持つ高潔な生活観が見えるからではないのか。そういえば、デーモン・クルコウスキーは絶版の実験文学を復刻する趣味の出版社をやってもいるそう。二人は、ジャックス(再評価を受けている、60年代後期の日本のフォーク・ロック・バンド。その後、メンバーの早川義夫は音楽界復帰前に本屋さんをやっていたことがありましたね)の曲も日本語で1曲披露。

 追記)デーモン・クルコウスキーのお母さんは、知る人ぞ知るジャズ歌手のナンシー・ハロウ(村上春樹も大ファンとか。その11月下旬の来日公演にもLPを持ってかけつけたという)。ナット・ヘントフの肝いりで60年にデビューした人(キャンディド・レーベルから!)で、引退していた時期は編集者をやっており、そんな彼女はスコット・フィッツジェラルドに捧げたコンセプト・アルバムも作っていたりする。なるほど、そんな人の子息でもあったのですね。ハロウはザ・ビートルズ曲集やボブ・ディラン曲やボブ・マーリー曲らを取り上げているアルバムもあるが、それについてはデーモン・クルコウスキーのなんらかの関与があるのかも……。

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