東京JAZZ 2009

2009年9月4日 音楽
 NHKが仕切っているジャズ中心イヴェント、有楽町・東京国際フォーラムのホールA。普段は地下鉄の有楽町駅から地下をそのまま歩いていき会場入りするのだが、この日はキブンで地上を通って行く。そしたら、あらら。国際フォーラムの中庭にはいっぱい出店がでていて、テーブルと椅子が出ているではないか。で、その付け根にはステージがあって外国人コンボが演奏していた。東京JAZZは国際フォーラムで開かれる有料公演以外にも無料ステージがあり、そこにはオランダ、オーストラリア、フランスからやってきた複数アーティストが国ごとに括られて演奏しているらしい。へえ、意外に手間のかかることやっているんだな。

 この日、夜7時からの出し物の最初の出演者はNHK交響楽団、コンサート・マスターが何気に筋モン顔でひゃはは。沼尻竜典(2008 年7月3日)の指揮によるそれは“シンフォニー・ミーツ・ジャズ”というお題目によるものだが、3〜4分台の短い曲を数曲かやった最初のブロックは謎。なんか痒いBGM的なそれはジャズ要素は皆無。だれの曲/アレンジのものをやったのか。そして、あとの長尺の2曲は確かにジャズとも繋がりを持つスケールの大きな名曲を演奏。エルダー(2006年6月23日)をフィーチャード・ピアニストに迎えたジョージ・ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」とレナード・バーンスタインの「シンフォニック・ダンス・フロム・ウェストサイド・ストーリー」、とくに後者はミュージカルを見たばかりだった(2009年8月4日)ので興味深かった。いろんな角度からのステージを見せるヴィジョン映像はけっこう秀逸。最初のほうでピアノを連弾していたり、打楽器奏者が何人もいたことも解ったし(「シンフォニック・ダンス・フロム・ウェスト・サイド・ストーリー」ではドラム・キットも用いる)。ここ何年もデカいオーケストラ編成表現には興味をひかれ、老後はクラシックをちゃんと聞いてみたい(とてもじゃないが、今はそんな時間ははい)と考えるぼくはじじいになったら一回指揮者の真似事をしてみたいなんてモ〜ロクした頭で思うのだろうか。

 次はオランダのジャジー・ポップの才人、ウーター・ヘメル。ギター、ピアノ、ウッド・ベース、ドラム、パーカッションを率いてのステージ。終盤、無料ステージに出演していたオランダのファンキー・ラテン・ジャズ集団のニュー・クール・コレクティヴのベンジャミン・ハーマン(アルト・サックス)が出て、色を添えた。途中、みんな中央に集まってザ・ビーチボーイズ風のコーラス・ナンバーを披露したりも。性格の良さそうな貴公子というノリもあったヘメルのパフォーマンスはほんわか、とってもいい感じだった。

 が、この日の白眉は最後に出た、矢野顕子(2004年7月20日、2008年8月3日、2008年12月14日、2009年8月19日)と上原ひろみ(2004年11月25日、2005年7月31日、2006年9月4日)のデュオ。基本は矢野の歌付きレパートリーに上原が寄り添う形で広げられるのだが、これはすごかった。もう本当に噛み合っての飛躍ある丁々発止が展開され、なんか感動して涙腺が緩みそうになっちゃったじゃないか。たとえば、3曲目の矢野の近作に入っていた「Evacuation Plan」のとき、矢野の奔放な歌を継ぐように、「矢野さんがああ歌うのなら私はこう歌う!」てな気概とともに猛烈なエモーションをこめて上原がソロを取り出したときなんて(ヴィジョンに映し出される映像はそれを直裁に受け取らせる助けとなる)、もうぼくはえも言われぬ衝動を感じて震えちゃったもん。

 二人で出口を探っている感じはなく、エンディングではスパッっと終わるので、それなりにリハもしているのはよく解る。この黄金の組み合わせは上原の09年ソロ・ピアノ作『プレイス・トゥ・ビー』の日本盤ボーナス・トラックがデュオ曲であることから企画されたのかと思ったら、06年暮れに共演コンサートが開かれたり、今年の蘭ノース・シー・ジャズ・フェスティヴァルでも二人はステージをシェアしたそうだ。とにかく、とっても実のある組み合わせであり、その相乗で二人はおいしい姿をたっぷりだす。えーん、この米国居住の日本人女性二人は無敵、彼女たちはスーパー魔女だあ! ほんと、音楽ってすごい、才ある音楽家ってすごい。

 実は二人の奔放なやりとりの間、少しビートの感覚がシンプルになるとすぐに手拍子を取るお客さんたちがいて、それがとても演奏に浸るのを妨げる。それはすぐに演奏のテンポとズレるのが常で、気持ち悪い事とと言ったなら。もう、それで舞う音楽の妖精が半減しちゃう、誇張抜きに。この晩、それは度々、手拍子をとらなきゃライヴを享受した気になれない大馬鹿客をおおいに恨む。それを迷惑がっている人は大半なはずで、おいおい近くにいる人、注意したくなんないのかなーとも何度も思った。が、あるときはわりと近くにいるおばはんも傍若無人にやっていて……。いい加減にしろやあババアとどつくぼくが、心のなかにいました。帰りにフォーラム内にある相田みつをミュージアムの横をとおったのだが、同ミュージアムも心の中で木っ端みじんにした。

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