この日は、雨は降らず。けっこう、いろいろ見たし、いいモノと出会えたという所感をとても得る。で、陽に当たったという気持ちは得なかったが、それなりに肌が焼けました。

 スタートは昼下がりグリーン・ステージのシェウン・クティ&ザ・エジプト80。そのあまりにうれしい味はWOMEX公演(2007年10月25日)に書いたとおりだが、これは何度見ても有頂天になれる何かをしかと持っているとすぐに興奮。といいつつ、明日のオレンジ・コートでの彼らのステージをじっくり見る予定を立てているので、途中で移動。奥(オレンジ・コート)までに行って、フランスのギタリストとドラマーのデュオ、ジ・インスペクター・クルーゾを見る。小単位による、肉感的&ファンキーな爆発ロック表現。ときに愛あるR&B憧憬表現を開きつつ、一方ではレッド・ホット・チリ・ペッパーズみたいな曲をごんごん送り出したりも。仕草はなんかチャーミングだったりもし、これはいいライヴ・アクトだと思う。そんな彼らが持つ会社は現在フィッシュボーン(2007 年4月6日、他)のマネイジメントやCDリリースを行っている。

 その後、その先に出きたスペースをのぞきつつ(そこに出来たカフェをはじめ、毎日どこかのステージに立った、がらっぱちで娯楽精神に長けたスウェーデンの若手ジプシー音楽系集団のレーヴェンという集団は大人気だったみたい。ぼくもアヴァロ・フィールドでそのパフォーマンスに少し触れたが、すごい人が集まっていた。なんでも今年のフジ・ロックの即売CDで一番売れたのが彼らだったそうだ)、またオレンジ・コートに戻り、そこでイーライ“ペイパーボーイ”リード&ザ・トゥルー・ラヴズを見る。米マサチューセッツ州ベースのブルー・アイド・ソウル歌手と彼を盛り上げるホーン隊付きのバンドが一体となって、がちんこソウル・パフォーマンスを展開。新しさは何もないが、愛と経験はいっぱい、そりゃ見ていてイヤなはずがない。イエイ。

 そして、この日の大きな発見アーティストであったのが、西海岸バンドのジ・アグロライツ。レゲエ基調にファンク/R&Bや骨太ロックの要素を加味した音楽性を持つのだが、塩辛い歌声とガッツあるバンド・サウンドが噛み合う様はその手の最良の形の一つ言いたくなるほど存在感と訴求力あり。アルバムを聞いてトゥーツ&ザ・メイタルズ(2004年9月17日)にロックっぽさを重ねたみたいと思ったが、ここまで生の味がいいとは! 浮かれました。

 といいつつ、最後までは見ず(泣)、大急ぎでグリーンに異動。順調に伸びている豪州出身のジェット(2004年2月4日)のパフォーマンスを見る。水曜日に東京で彼らを取材することになっているため、けっこうじっくり拝見。ザ・ローリング・ストーンズの音に代表されるような“ロックとして変わらなくていいもの”をフレッシュな心持ちで表出しようとしている彼らだが、そのまっつぐなパフォーマンスに客もホットに応える。まっとうなロックが祝福された空間を招く……。その様に触れながら、下手に遅い時間よりは場内が明るく誰も帰りの時間を気にしないこの頃が一番いい時間帯なのではないかとも、ふと思う。どんなもんだろう? 彼らは翌日は韓国でやったロック・フェスに出演したという。

 その後、オアシスで知り合いと酒盛り、少しレッド・マーキーのトラッシュキャン・シナトラズ(けっこう、変わらない感じ?)やブライト・アイズ(微妙な含みがあったような)などを少しかじる。で、酔っぱらいお腹もふくれ、もう一度ゆっくり“奥”のほうに向かう。グリーン・ステージではいろんな人が登場する忌野清志郎(2005年7月29日、他)へのトリビュートの出し物をやっている。Char(2008年10月5日、他)やUA(2009年5月30日、他)らが歌うのを見る。忌野清志郎が歌う生前のライヴの映像/歌に合わせてステージ上のバンドが音を出すときも(その様式は、1999年11 月23日の項を参照のこと)。もっと見たかったが、ブラック・ロック応援団長みたいな感じだった時もあるぼくはホワイト・ステージに行き、30年以上のキャリアを持つD.C.出身のラスタ混合ロック・バンドのバッド・ブレインズを途中から見る。レゲエとハード・コアのぶきっちょでもある折衷表現をマイペースに繰り出す。過剰に感激はしなかったけど、見れてよかったし、妙な存在感は感じたな。そのままいて、パブリック・エネミー(2005年8月14日)を見ようと待っていたのだが、前説みたいなラッパーが出てきている時点で、フィールド・オブ・ヘヴンで同時刻からはじまるザ・ファンキー・ミーターズのことが気になってしまい(昨日、メンツが一部重なるザ・ネヴィル・ブラザーズを見なかったために余計に)、隣のステージに異動。フレイヴァー・フレヴが急遽来なくなりチャック・Dが奮闘することとなったバンド付きステージだった彼らのライヴは否定的な感想を言う人も複数いたが。

 で、ニューオーリンズ・ファンクの重要人物であるアート・ネヴィル率いるザ・ファンキー・ミーターズのステージだが、これは期待どおり。90年ごろに彼らは日本公演を行っている(東京はクラブクアトロだった。取材もしたので、よく覚えている)が、そのときよりも間違いなく今回のほうが良かったはず。普段は車椅子を用いているというアート・ネヴィルが力の入った演奏を見せていたし(息子のギタリストのイアン・ネヴィルを見つめる風情は本当に良き父親。少し、親馬鹿はいっているかもしれぬ。ああ、その従兄弟のロック派逸材アイヴァン・ネヴィルを見てえ!)、ジョージ・ポーターJr.(2008年8月14日、他)も闊達にパフォーム。けっこう、予定時間を超えて彼らはニューオーリンズのうれしい何かを提出しまくってくれた。ドラムはかつてパパ・グロウズ・ファンクにもいたラッセル・バティーステ(2006年8月8日、他)だったのかな。

 そして、さらに奥に行き、オレンジ・コートで60年代南部ソウルのアイコン的オルガン奏者のブッカー・T・ジョーンズのギグを途中から見る。声援を受け、終止うれしそうな彼もまたけっこう長い時間パフォーマンスしたな。ものすごく久しぶりのアンタイ発新作『ポテト・ホール』のけっこうロッキッシュ(ジョーンズにバッキングを頼んだこともあるニール・ヤングもゲスト入り)な部分もあるインスト作だったが、この晩のバッキンッグも生理的にヤサぐれた白人たちがやっている。が、ジョーンズ自体の演奏は昨年のブッカー・T &ザ・MGズ公演(2008年11月24日)のときの演奏より覇気があったのは間違いない。そんな彼はアンコールのときには、なんとサム&デイヴの「ホールド・オン」とオーティス・レディングの「ドッグ・オブ・ザ・ベイ」、2曲の60年代スタックス有名曲を訥々と歌う! おお、けっしてうまくはないが味あり。うぬ、これは貴重なパフォーマンスではないか。そういえば、先のグリーンの忌野清志郎トリビュート・ショウにアメリカからかけつけたスティーヴ・クロッパー(2009年7月14日)が刎頸の友たるジョーンズのステージに飛びいりするんじゃないかと思ったら、それはなし。昨年も一緒に来ているのに、決して懇意な関係ではなくなっているのかも。

 ……なーんてこたあ、どーでもいい事。とにもかくにも、これは得難い、米国黒人インスト表現の最高峰を担ったオルガン奏者を中央に置く表現の2連発を体験してしまったあと高揚。ザ・ファンキー・ミーターズの前身であるザ・ミーターズはMGズの成功を横目に、ニューオーリンズ版のそれをやろうと組んだという話もある。

 その余韻を楽しむように、雨天でもないしオアシスに戻りまったり。苗場食堂で複数知り合いと会い、お酒をおごったりおごられたり。うだうだ、なあなあ。そーゆう乱暴な緩い宴のノリもフジ・ロックの醍醐味なり。

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