スペインでは、レストランは遅めのランチ営業のあと、夜は8時半にならないと店があかない。確実に東京より2時間は遅く、この国の夜時間は進められる。「今日はスペシャル・デイだからレストランはやっているよ」とホテルの人は言っていたとおり、夕方近くにもレストランはやっていて、ホテル・マンおすすめのお店で魚介モノと白ワインを注文。もう、お店じゅう(それは、街中も同様)、子供を連れた家族だらけ。スペインには少子化の心配はないはずと、ぼくには思えた。そして、これぞセビーリャといった思いを抱かせる迷路のようなサンタクルス街をバール堪能込みでたっぷり探索。その後、ホテルに戻りさらに一枚着込み、20時15分ぐらいに地元サッカー・チームのレアル・ベティスのホーム・スタジアムに向かう。タクシーの運ちゃんに、「レアル・ベティス」とだけ言ったら(だって、試合やスタジアムのスペイン語を知らなかったから)、ウィンクを返し、問題なく連れていってくれる。ホテルから、チップ込みで7ユーロ。少し、はずんだ。

 セビーリャは二つのリーガ・エスパニョーラのチームを持つ。同リーグの上位にいるセビーリャと、05〜06年シーズン(UEFAチャンピオンズ・リーグの出場権を得て、グループ・リーグを突破した)以後は下位に低迷しているレアル・ベティス(昨年で設立100年となった)。前者は洗練されてて、労働者に人気のレアル・ベティスのカラーは粗野などと、両チームは対比的に語られたりもする。

 5万人強収容のスタジアム(マヌエル・ルイス・デ・ロペーラというのが、正式名称)は大通りに面した整った住宅地の一角にある。試合開始は21時。まずは、チケット売り場の場所を探す。チケットと英語で言っても通じないが、チケットの形を両手で作ると分ってもらえる。正面側と反対の所に、オフィシャル・グッズ売り場と並んでチケット売り場はあった。まずチケットを入手せねばと列に並ぼうとすると、おじいちゃんがスペイン語で話かけてくる。何を言っているかまったく分らないが、チケットを斡旋しようとしているのはすぐに了解。彼はクレジット・カード大の“ベティス・カード”を見せてきて、それはどうやら年間シートの会員証のよう。携帯電話に数字を打ち込ませると、40ユーロの席を30ユーロでいいと言ってきているようだ。席の位置にもよるが、高いわけではないと判断するものの、ぼくは20と打ち込みかえす。少しやりとり(と言えるものかどうか、疑わしいが)したあとに交渉成立。こういう、入場の仕方も面白い。人ごみのなか、ついておいでと言っているだろう彼と一緒に該当のゲートに向かう。ありゃ、グッズ・ショップを覗こうと思ったのに……。

 持ち物検査などは一切ないが、チケットのチェックはけっこう厳重。じいさんは件の磁気カードをぼくにも渡し、それを見せて最初の入り口チェックを入る。で、次のチェックの所ではそのカードを機械に差してゲートを通り(けっこう、モダンだなと思う。紙のチケットも差し込んでバーコードを読み取っていたようだ。それだけ、かつては不正入場者がいたのだろう)階段を上ると、すぐに客席があり、その先には綺麗なピッチが広がっている。で、そこでは両チームがのんびりアップをしている。じいさんはカード返却を求めてきて、この辺どこでもいいからと言って(いたのではないか?)、じゃあねといった感じで去る。一瞬、あれれと思うが、じいさんの隣で見るよりは気が楽だし、気兼ねせず自由に動けるのでそのほうがOK。

 スタジアム(ピッチと観客席はとても隣接)はそこそこは新しく、明るく、昨年行ったFCバルセロナのカンプノウ(2007年10月28日)よりもぼくは好印象を持つ。とはいえ、椅子は小振りで汚れ気味、席と席の列配置もミニマムで、人の行き来が大変そう。その点については大バツ。一階席(他の階には行けないようになっていた)の後ろの柵に立ち寄りかかって見ようとしている人もいるので、ぼくもそれに倣う。試合を俯瞰的に捉えることはかなわないが、見やすい。ピッチを挟んだ反対側のメイン・スタンドはけっこう空席があったが、横側とこちら側の見える部分は相当な入りだ。

 昨年のカンプノウと同様にアウェイ席はなし。全面的にレアル・ベティスのサポーターがピッチを囲むという感じ。驚いたのは、一階部の前の席はもろにグラウンド・レヴェルにあり、しかもピッチと客席側の仕切りがとっても低いこと。ピッチに乱入しようとすれば、誰でも即できちゃうぞ。で、レアル・ベティスのサポーターは過激でその暴走によりペナルティで無観客試合を命じられたなんてニュースが届いたりもするが、その手の熱いエンスージアストは片側のゴール裏に集合している(さすが、そこにはビッチとの境に網のようなものがあった)。そこでは、旗群が揺られされるとともに、爆発音が聞こえたり、発煙筒が焚かれ煙がもうもうとなっていたり赤い閃光が発されていたりする。おー、その様は本場のスタジアムに来ているという気になれるゾ。だが、その一角いがいはみんな穏健に、暖かく応援するという感じ(それは終始、感じた)。いいサポーターたちじゃないか&地方のチームはいいナ。試合開始前にはクラブの曲が流され、そのときはみんな立って、クラブの横長のフラッグだかマフラーだか(レアル・ベティスのカラーはブライトな緑色)を両手で広げて宙にかざす。支持者であることを誇り、チームを祝う。うわー、とても素敵な光景。

 対戦相手は、リーグ順位の中位にいるデポルティーボ・ラ・コルーニャ。両チームともぼくが注目する選手はいない(いや、そんなに詳しくないんですけどね)が、それなりには楽しめる試合。ホームのレアル・ベティスが押し気味に進めたが、前半はO対0で終了する。

 ハーフタイムのとき、英語で話しかけてきた青年と少し話す。大学生だそうな彼は、せっかく見にきてくれたのに今はレアル・ベティスが調子悪くて申し訳ない、みたいなことを言う。日本のプロ・リーグのことも聞いてきたが、安永や城や大久保らスペインのチームに入ったことがある日本人選手のことは知らなかった。そういえば、前々日にはフランスのナイーヴ・レーベルの青年とサッカーの話をしたな。彼はリヨン出身で、リヨンの熱心な応援者とか。サンテティエンヌとはホームが近くて、その対戦のときは盛り上がるなんて事もいっていたが、今年からサンテティエンヌに所属する松井大輔のことは知らなかった。ま、なんにせよ、あまりお互いの事を知らなくてもサッカーや音楽の話題はコミュニケーションを多分に円滑にする。

 後半も15分までは0対0。その時点で、後ろ髪はひかれたが、退出する事とする。試合後はタクシーは拾えないし、バスも運行が終わっていて、旅行者は大変な思いをするという話を聞いていて、疲れも感じていたので、ヘタレになりました。ちょうど外に出たとき、嬌声がゴワーンと聞こえてきて、点が入ったとわかる。そのトーンが明るくないので、デポルティーボ・ラ・コル−ニャの得点であることも。

 道に出ると、なるほどタクシーは1台もとまっていないし、通りもしない。こりゃ、どうしたものか。とりあえず、バス停の前まで行き、思案していると、空のバスが来る。始発のようだが、行き先が分らない。運転手にホテルでもらった地図を見せると、近くのバス・ターミナルには行くようなのでホっ。1,5ユーロ。偶然、ホテル横のバス停で下車できてまたラッキー。

 深夜にサッカーTV番組を見たらびっくり。その後、レアル・ベティスは2点も入れられ、0-3でぼろ負けしちゃっている。あのゴール裏の熱心なサポーターたちはどうなったのか。ぼくが好印象を持った普通のファンたちはそのまま穏健だったのか。ちょっと確認したかったかも。3点目を入れられた時点で帰路につく人は少なくなかったんじゃないだろうか。

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