<ジャズのエリート・コースを歩み若くしてエスタブリッシュされ、そのままジャズ・ビジネスの前線にいつづける>(2003年2月18日)ものの、一方では<ずっとファンクやヒップホップを愛好してきたとのたまいソウル・クエリアンズ勢らとつるみつつ、R.H.ファクターという軟派プロジェクトを組み>(2003年9月21日)、おージャズやるのに飽きてんだアと思わせたら<また真摯な純ジャズ路線に取り組む>(2007年9月10日)……。そんな、69年テキサス州生まれのトランぺッターの08年来日公演はなんとビッグ・バンドを率いてのもの。なんでもNYでもビッグ・バンドを組んでギグをやったりしているようが、今彼はよりいっそうのジャズ・モードに入っているだろうか。

 開演10分近く前には、メンバーがステージに出てきて待機したりも。サックス・セクション5、トロンボーン・セクション4、トランペット・セクション4、ウッド・べース、フルアコのギター、ドラムという布陣。年齢は20代から40代まで、アフリカ系が多いものの白人も何人か(ダントン・ボラーというベーシストは俳優かと思うほどにカッコいい。かつてブルーノートが出した事もあったザ・ジャズ・マンドリン・プロジェクトのメンバーだった事もある彼、イケ面マニアの人は彼目当てに行っても元は取れたと思えるはず。ルックス、技量ともに、カイル・イーストウッド破れたり、かな)、女性も1人。彼らは基本、スーツ着用。一番若そうなラテン系入ってそうなドレッド頭のピアニストは平服。スーツを持ってないと申告したら、じゃあ白いシャツだけ着てよね、なんてバンマスとのやりとりがあったと想像する。最後に出てきたハーグローヴはサングラス着用で黒のジャケットに、黒のネクタイ。ながら、ノー・アイロンぽい白いシャツはパンツの中に入れず、スニーカー着用。それも、自分なりの価値観の発露?……。

 スタンダードあり、知らない曲あり、けっこうR&Bぽいものあり、ラテン調もあり。スコアをどう調達したかはしらないが、大編成表現の醍醐味や楽しさを素直にアピールする出し物が並ぶ。ハーグローヴは必ずソロを取り(美味しい所をまずいただく、というのはリーダーの特権なり)、他に一人か二人がソロをとる。最後にメンバー紹介的にトランペット・セクションで長々とソロを回した(少しヘタっぴもいた)が、それは別のショウのときは違うセクションがフィーチャーされるんじゃないだろうか。

 そこそこの力量を持つ人たちを集めて、自分を中央に置いての、こういう大掛かりなプロジェクトをちゃんと形にしている事に触れ、ハーグローヴって力を持っているんだなと、思わずにはいられず。とともに、昔から自分なりのビッグ・バンドをやってみたいという気持ちを持ち続けてきたんだろうなとも痛感。もう、彼、奮闘していたもの。でっかいアクションで明快に指揮し(ある曲の出だしのトロンボーン・セクションの絡みが上手く行ったときには、グー・サインを出したり。ハハ)、かけ声をかけ、何度も曲調に合わせてフリをつけたり、踊ってみたり。それに団員たちも嬉しそうに、応える。歓び、あり! 彼がこんなに快活で、快楽的で、アツい奴だったとは。 彼が送り出す大所帯表現はビッグ・バンド・ジャズのある種の意義を映し出すものであり、もっと言えば、生きた笑顔ある音楽の普遍的と言いたくなる輝きを存分にだしていた! 

 途中2曲と最後のほうには、米国でもけっこう知名度を得ているイタリアの女性ジャズ歌手のロバータ・ガンバリーニが出てきて歌うのだが、彼女にもびっくり。もともと本格派というイメージがあったものの、こんなに歌える人だったとは。本物。延々のスキャットもばっちり。フィーリング、技量ともに大OK、まちがいなく彼女の次の来日時には見に行く事をきめました。ガンバリーニ最後の曲(3曲目)のときはハーグローヴもスキャット合戦に加わる。と思ったら、彼は次の曲でうれしそうに一人で歌う。あらら、あんた歌うのそんなに好きなの? でも、それもとてもいい感じだった。途中からはサングラスも外し、額に汗を浮き上がらせ笑顔満面なハーグローヴ。一から十まで、グッド・ジョブ!

 南青山・ブルーノート東京。日曜までつづく出し物の、初日のファースト。山あり、谷あり、たっぷり90分。おお、今後のショウはどーなる? また見たいけど、予定はびっしり……。しくしく。


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