90年ごろのブラック・ロック旋風の真ん中にいたリヴィング・カラーのドラマーであるウィル・カルホーン(2001年7月27日、モス・デフのバンドでの来日)と、80年代中期にジャズ界に大きな旋風を巻き起こした特殊奏法ギタリスト(左右の指でフレットをおさえ、タッピングでピアノの奏法をギターに移したような事をやる)であるスタンリー・ジョーダンの双頭グループ……。というふれこみだが、ほぼジョーダンはサイドマンといっていい役割で、ウィル・カルホーン・クインテットと言える演奏内容だった。スタンリーの奏法を曲芸みたいで不毛だと感じていたぼくは、それはとてもOKな事であったのだけど。なんにせよ、ジョーダンのこの晩の演奏は例の奏法も見せなくはないものの、普通の弾き方もまじえ、そんなにこれ見よがしなものではなかったはず(ゆえに、旧来のファンなら不満を覚えたかも)。二人は仲良しで、カルホーンの05年新作にジョーダンは入っていたりする。

 他は、ピアノ(ラップトップも扱い、キーボードも少し弾く)、トランペット、電気ベース奏者という内訳。けっこうぐつぐつしたぼくの好みの演奏をしていたマーク・ケリーというベーシストは知らない人だったが、正統ジャズ・ピアノと電気処理の両方をこなすマーク・キャリーとロイ・ハーグローヴ(2007年9月10日.他)を少し太らせたようなトランペットのコレイ・ウィリスはリーダー作も出している実力者。キャリーはベティ・カーターやアビー・リンカーンら正統“逸”ジャズ・ヴォーカリストのバッキング・ピアニストとルイ・ヴェガ(2003年7月20日)やロン・トレントらクラブ音楽サポートの両方を涼しい顔してこなす人であり、シカゴ拠点なはずのウィリスはアート・アンサンブル・オブ・シカゴの06年作に亡くなったトランペット大将のレスター・ボウイの代役として加わっている人なのだから!

 そんな人たちがやる演奏はかなり変。基本は骨っぽい現代ジャズという感じながら、PC音が干渉したり、カルホーンがサンプラー音で遊んだり、アフリカ的な何かを覚えさせるパートが割り込んできたり……。けっこうなんでもアリのバラバラ感を持つものであり、理屈っぽさと子供ぽさが不可解に溶け合った演奏だったと書けるかな。でも、それもおいらの考える今のジャズを求めたいという気持ちが支えていたのは間違いない。それから、その様はどこかオマール“電波系”ソーサ(2008年3月16日、他)の表現を思い出させるところがあったかも。南青山・ブルーノート東京、セカンド・ショウ。

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