松本茜

2008年7月17日
 赤坂・Bフラット。ハタチの大学生ジャズ・ピアニストのデビュー作発売を追うもので、そのアルバム『フィニアスに恋して』(コロムビア)と同じ顔ぶれのトリオにてのパフォーマンス。ただし、大学は非音楽系学部に通っていて、そのココロはジャズは学校で習わなくてもできると思ったから、とか。小学2年生のときジャズの存在を知り、クラシック・ピアノからジャズ・ピアノにシフト。以後、ジャズ一直線の娘さん。で、好きな人が、(今の多くの担い手が挙げるだろう)ビル・エヴァンスやハービー・ハンコックやブラッド・メルドーではなく、(もっと前のジャズ流儀を持つ)フィニアス・ニューボーンJr.、エロール・ガーナー、トミー・フラナガンというのがポイント。そりゃ、おのずとそれは差別化できるポイントになりますよね。足を打撲して(理由はきかないで〜)歩行が少し困難なため車で行きセカンド・セットだけをさくっと見たのだが、セカンドはオリジナル比率が高めだったようで、その場合は少し今っぽくなる感じはあるナ。基本、今のピアニストならスタンダードなんかやらずに己の創造性を出したオリジナルをやらんかいと思うぼくだが、“いい基本”を知る彼女はそれに当てはまらないかも……。若い娘が旧世代の流儀を健気に瑞々しく開く、というのはアリ。ニューボーンJr.好きということで、実演ではコロコロと珠を転がすように弾き倒すのを期待したら、それに適した弾んだ曲をそれほどやらなかったのが残念。オレが考えていたよりも大人だった? 本編最後にやった「スピーク・ロウ」は望んだノリの演奏。そして、それを聞きながら、彼女はこれまでの人生の何%を鍵盤の前で過ごしてきているかなと、ふと考えたりもした。坊主頭のベーシストがソロになるとものすごいうなり声を出しながら弾き、それがかなり気持ち悪かった。

 ところで、近年はまったく駄目だった野茂英雄が引退した。成人になってから野球にぜんぜん興味が持てなくなったワタシではあるが、どこか残念と思うとともにあんた素晴らしかったっスと思える。努力とか我慢とかはぼくの嫌いな言葉ではあるけど、へんなプライドとかなしに自分の大好きな事に体当たりし続けられるのって、本当に素晴らしい。野球をすることが、ピッチャーとしてボールを投げるのが、ほんとに好きだったのだろうな。彼の「悔いが残る」って、コメントはいいな。だからこその、次がある。彼ならばアマチュアで野球をやり続けるかもしれないし、来年再びプロに挑戦してもおかしくない。90年代中期、彼がアメリカに渡った年かその翌年か、LA滞在時にドジャーズ球場での野茂登板日が重なったことがあって合法のダフ屋にチケット手配して、彼の勇士を見に行ったことがあったっけ。胸が高鳴った。とっても、いい思い出だな。サッカーの三浦和良も昔は嫌いだったけど(ヴェルディ↓↓な事もあって、仏W杯の代表メンバーから直前に外されたとき、ぼくは喝采しました)、J2でやるようになってからはその見え方がだいぶ変わった。キング・カズ、がんばれ! で、話はもどるが、松本茜もずうっとずうっとピアノを弾いていくんだろうな。男で一時引退とか、そういう筋書きも面白いけど……。無責任な書き方だが、これからいろんなことを経験して、魅力的な濁りや翳りも見つけなくてはならないだろうし。思い出したが、ニューボーンJr.はけっこう精神に破綻をきたして娑婆と病院を行き来した人で、そのエピーソードにひかれ、高校生のころからぼくは彼のアルバムを買ったりしていた。あー、思春期……。

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