ラングレンはぼくの特別銘柄アーティストだった(大切な音楽家10指に入ったはず)が、2002年来日時のプロにあるまじき受け手をなめた大醜態(2002年9月19日、9月28日)に触れ、ぼくは彼を見限った。でも、あれからだいぶ時間もたったし、今回はバンドでのライヴだしい……ということで、見に行っちゃいました。やっぱし、ぼく彼の大ファンなんだよー。他に過去、彼の来日模様に触れているのはザ・フーの故ジョン・エイントウィッスルらとザ・ビートルズ曲をやりに来日した2001年11月9日の項。

 六本木・ビルボートライブ東京、ファースト・ショウ。さすが、いまだファンは少なくないようで、ぼくがこれまでここに来たなかで一番混んでいた。ギターを弾きながら歌うラングレンに加え、ギター、ベース(ユートピア時代からの仲良し、カシム・サルトン。ユートピアの曲もやったのかな?)、ドラムという布陣にて。今回のライヴにおいてトッドは鍵盤に見向きもせず(っていうか、置いていない)ギターだけを触ったことに表れているように、内容はオールド・ウェイヴなハード目ギター・ロックで統一。やった甘めの人気曲は「アイ・ソウ・ザ・ライト」ぐらいだったか。まあ、歌声とギターには目一杯触れることは出来るものであり、バンド音も悪くはないし、多少は飲んでいたかもしれないがちゃんとしたパフォーマンスを繰り広げたトッド御大でした。しかし、パフォーマンスに触れながら、72年作『サムシング・エニシング』(これが一番好き、というか、今となってはコレさえあればいいという感じかな)の曲だけをやる実演とかあったら失禁ものだろうなとも思ったワタシ。触れてみた〜い。今の彼には前を向いたところがないだけに、やはりぼくも後ろ向きなことを考えてしまう。ま、ラングレンにはそれが許されるとんでもない財産がありますからね。

 90年代前半(PC関連テクノロジー活用に一番ご執心だったころ)に複数回ラングレンにはインタヴューした事があって、当時すでに音楽的にはつまらなくなってはいたけど、新しい事をやりたいという意欲には美しいぐらい燃えていて、さすがだあと感激させられたっけ。「マイケル・ジャクソンはキング・オブ・ポップと呼ばれているが、冗談じゃない。彼はあれだけ売れてやりたいことをやれる力を持っているのに、どうして新しい事をしようとしないんだ。そういう点で僕が評価できるのはU2だけだ」、なーんてことも、ラングレンは語っていたっけ。そして、新しい事に邁進していきたい彼は「僕は世代的にポップ・ミュージックは3分間という価値観で育った人間だから……」とポップ音楽の革新に対するビミョーな気持ちを吐露してもいたんだよな。二年前、カシム・サルトンとともにリック・オケイセク抜きのエリオット・イーストン主体の再結成ザ・カーズ(ザ・ニュー・カーズという名義だった)のツアーに加わったラングレンでもあるが、今は後ろ向きで楽しく音楽ができればそれでOKって感じなのだと思う。ともあれ、やっぱし愛すべき変人なんだろうなーと、ステージに触れて感じちゃうところは多々。それは、昔から変わりませんね。

 蛇足。トッド・ラングレンと言えば、NY在住ジャズ・ピアニストの山中千尋が飛躍作『アビス』を昨年出したときに、今トッド・ラングレン・モードで彼の持つ世界をジャズでやろうとしたらこうなった、みたいな言い方をしていたな。トッド、あなたの蒔いた種はいまだ、いろんなところで咲いているんだからネ。

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