エルヴィス・コステロ
2006年6月2日“オールマイティ”コステロ、フル・オーケストラ(東京シティ・フィルハ
ーモニック管弦楽団)を起用しての公演、有楽町・東京国際フォーラム・ホ
ールA。壮観じゃ。あのだだっぴろいステージが全部、オーケストラ員が座
る椅子や譜面台で占められているんだもの。本編が始まる前から、ひょえ〜
って気持ちになっちゃったな。事前にもらったセット・リストにはきっちり
と各曲ごとの尺の長さ(○分○秒と、細かく。単位は5秒きざみ)が書いてあ
ってまたびっくり。当然プログラム・ビートを用いているわけではない。ク
ラシックのほうの設定ってそんなに厳密なの?
公演は2部構成。まずは、シェイクスピアの何かを元にコステロがスコア
を書いたオーケストラ作品『イル・ソンゴ』の組曲を35分。とうぜんコス
テロ抜き、オーケストラだけで披露される。へえ。ぶっちゃけ、良く分から
ない部分が多いが、すげえなという気にも少しはなる。場合によっては、サ
ックスやトンボーン・ソロを浮き上がらせるときも。また、ドラムを使う箇
所もあり、それは日本人を雇っていた。で、その長尺曲が終わると、2曲目
はコステロだけによる、生ギター弾き語り曲「ザ・リヴァー・イン・リバ
ース」(この最新曲を、今公演で本人が歌う最初の曲に持ってくるところに
、彼の新作に対する意気込みが感じられる?)。そして、オーケストラをバ
ックに、「オール・ディス・アンレス・ビューティ」と「ザ・バーズ・ウィ
ル・スティル・ビー・シンギング」と、彼は続ける。指揮者は1947年生まれ
でニュージーランド出身、歌モノ伴奏も得意な瀟洒系ジャズ・ピアニストの
アラン・ブロードベント。チャーリー・ヘイデン(2001年8月3日、2005年
3月16日)のカルテット・ウェストのメンバーでもある人だが、オーケスト
ラ表現に強い人というのは初めて知りました。
休憩を挟んで2部へ。「スティル」や「シー」とかの人気曲をはさみつつ
、大がかりなコステロ曲といったノリで12曲が披露される。こっちのセット
はグランド・ピアノ(スティーヴ・ナイーヴ:2002年7月5日、2004年
9月19日、2004年12月8日)とアコースティック・ベース(グレッグ・コ
ーエン:1999年9月24日、2006年3月27日)も指揮者とともに中央前面に
位置する。こちらは、ステージ背景に少しカラフルな照明などもあてられ、
1部よりも多少柔らかい感じで進められる。
とにもかくにも、大がかり。この日の公演は、2月に予定されていたものが
順延になったものだが、さぞや人々の再手配は大変だったろうなあと思う。
でもって、どのぐらいオーケストラ陣とのリハをやったのか? それなりに
無理なく重なっていた公演に触れているとそうも思わずにはいられない。ま
た、フル・オーケストラ音と威風堂々渡り合うコステロの姿に触れて、オー
ケトラの団員の方々もポップ・ミュージック側でもスターになる人はさすが
に存在感あるのだなあと思ったのではないか。
それから、この日のコステロの圧倒的な勇士に触れながら、ぼくはジョー
・ジャクソンのことをちょっと思い出した。実のところ、同時期出たジョー
・ジャクソンのほうがぼくは昔、好きだった。JJのほうがより広がりがあ
り、明快なつっぱっりやこだわり(全曲新曲の、一発ライヴ・レコーディン
グの『ビッグ・ワールド』の実行等)を出していたし。クラシックやジャズ
的要素の導入も、彼のほうがずっと早かった。ジャクソンはさらに、ラテン
やエレクトロニクス要素のマジカルな拮抗都市ポップ作『ナイト・アンド・
デイ』という傑作もモノにした。だが、90年代に入るとジャクソンは一気に
降下線を辿ってしまう。一応、ここのところの作品も聞いてはいるが、昔の
ことが嘘みたいに冴えないもんなあ(でも、今でも、ぼくはJJに多大な何
かを抱きつづけているところがなくはないが……)。だが、コステロはます
ます胸を張り充実し、気持ちを込めた活動を本当に多方面に渡って繰り広げ
ている。あっぱれ。うーむ、人の一生って、才のあり方って本当に分からな
い。
アンコールも「アリソン」他、4曲。最後は客席側に下りて、横の扉から
退出したりも。こんなに大がかりなことをやっているのに、その前夜は音楽
ファンとして一般客と同じように客席に平然と座り、ニューオリンズR&B
曲を心の限り絶唱する。その落差、すごすぎ。その余裕ぶちかまし、自分に
自信を持っているんだぞという意気軒昂、正々堂々ぐあいにゃ驚嘆。我が道
を行くコステロ。自分を信じるコステロ。自分をまっすぐに出すコステロ。
姿勢が太すぎるコステロ。なんか、連続で彼を見て、楽しめるか楽しめない
かとかそういう部分を通り越して、このオヤジは鬼のように尊いと肌で痛感
。なんか、生理的にひどく澄んだもの、その洪水にぼくは言葉にならない感
動を覚えた。
06年の、ぼくの<ミュージシャン・オブ・ジ・イアー>はこの人になるの
かな。3日間、続けてコステロに接してぼくはそんなふうに今、感じている。
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