ベン・シドラン

2006年4月9日
 今、ベン・シドラン(1942年生まれ)といって、どのぐらいの知名度を持
つのだろうか。

 もともとジャズや黒人音楽の素養はあったものの、71年のデビュー作は時
代を反映し、ロックの方(スティーヴ・ミラー・バンドにいた。大学が同じ
だった)から異色のアーティストとしてデビューしたピアニスト/シンガー
。そのキャピトル発のデビュー作は確か英国録音でやはり大学からの仲間だ
ったボズ・スキャッグスをはじめ、ピーター・フランプトンやチャーリー・
ワッツなんかも入っていたと記憶する。その後、ブルー・サム、アリスタ、
ホランズン他から洒脱なジャジー・ポップ作品を飄々と出している。そんな
彼は90年前後に“ゴー・ジャズ”という自己レーベルを設立し、かなり精力
的にアルバムをリリースしたが、そうしたなかジョージィ・フェイムやフィ
ル・アップチャーチらのリーダー作は本当に素晴らしいものだったし、あの
頃のゴー・ジャズの多分にファンキーなハウス・バンド・サウンドは実にい
けてたと思う。

 そんな彼は北中部ウィスコンシン州ラシンという町の生まれ。若いときは
大都市に出ていたはずだが、ゴー・ジャズをやる頃にはとっくに地元に戻っ
ていた。彼が住んでいる所から一番近い音楽都市がミネソタ州のミネアネポ
リスで、彼はそこでレコーディングしたりもし、その近郊にいる才能を的確
に拾い上げたりもした。で、その最たる人達がビリー(ベース)、リッキー
(キーボード)、セイント・ポール(ギター、歌)らのピーターソン兄弟。
とくにワーナー・ブラザーズからリーダー作を出した90年ごろからリッキー
はなかなか売れっ子のアレンジャー/セッション・マンになり、かのプリン
スにも気に入られて彼のアルバム/および関連作にもいろいろと関与してい
る(その場合は、リッキー・Pとクレジットされたりも)。また、ルックス
のいいセイント・ポールは元々17才でザ・タイムと関わり、85年にプリンス
のペイズリー・パークからザ・ファミリーというグループ(もちろん、ロジ
ャー・チャップマンの名UKバンドとは別)でデビューしたことのある人(
その後、アトランティック他からソロも出している)。それから、プリンス
・バンドに関与している名手マイケル・ブランドも確か彼ら周辺から出てき
た人だ。

 現在は“ナルディス(シドランのスペルを逆さにしたもの)”という自己
レーベルを持っていたりもするシドランのことを見るのは、なんか本当に久
しぶり。だが、前よりもカッコ良くなった感じもあって、うれしかったナ。
ボブ・ロックウェル(テナー、フルート)、マイク・リッチモンド(ウッド
・ベース)、リオ・シドラン(ドラム)がサポートについてのもの。ロック
ウェルとリッチモンドはともにスティープル・チェイスから何枚ものリーダ
ー作を出していたりする腕自慢。リオ・シドランはベンの息子で、自己リー
ダー作は歌入りでもっとポップで、機械経由のことをやっていたりする。

 全員、スーツ&ネクタイ着用。そして、1曲目はもろストレート・アヘッ
ドなジャズ。ちょい、びっくり(彼のそういう演奏を聞くのは初めてと思う
)。だが、2曲目からは洒脱なヴォーカル付きのパフォーマンスとなる。と
はいえ、縦ベース起用につき、これまでになくジャジーな路線に則っていた
とは思うけど。で、ワン・コードの繰り返しのなか洒落っぽくシング・トー
クしていくような曲が2曲あったのだが、これがなかなか味と個性あり。い
やあ、シドランは得難いゾと思わせられた。やはり、知識と洒脱、みごとに
溶け合ってました。

 丸の内・コットンクラブ(セカンド)。いろいろ詰まっててどっしよっか
なーと思っていたのが、行って良かった。やっぱり、ライヴはなるべく行か
なきゃと再認識。とともに、なんか彼のキャリアをちゃんと書き留めておき
たくなったので、長々と書いちゃった。

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