10年ぶりの新作『タイム・トゥ・ラヴ』の宣伝活動のために、長いキャリア
のなか初めてプロモーションで来日したスティーヴィー・ワンダーをこの日、恵
比寿のホテルでインタヴュー。前日の記者会見でもサーヴィス満点にラジオ局
やTV番組のジングルを「シェルター・イン・ザ・レイン」や「ドンチュー・
ウォーリー・バウト・ア・シング」他を用いての即興替え歌にて披露してくれ
(やっぱり、見物でした。普段、不毛なので記者会見には出向かないが、翌日
短時間ながらも取材できることになっていたので、様子見にでかけたのだ)、
そのときはキーボード(エヴォルーションというメイカーのもの)を前にして
いたが、この日はハーモニカ(けっこう、大きいんですワ)を手にして受け答
えをする。取材中は吹かないが、終始手はリズムをとったり、ピアノを弾くよ
うな仕種をしたりしながら、彼は質問に答える。「僕はミュージック・ラヴァ
ー」というのがスティーヴィの口癖。この日も、2回ぐらい口にしていたな。
それから、さらりとした下ネタもお好きなご様子。記者会見のとき、娘(アイ
シャ)が横にいるのに、曲の由来の説明で、付き合っていた女性と熱烈なメイ
ク・ラヴをしてどーたらこーたらという言い方をしたが、この日も「夫として
うまくやるには、ちゃんとベッドの時間をを取ること」なんて言っていた。さ
すが、“愛の人”(笑)。

 そして、ザ・ビートルズの話をしたこともあったのか、インタヴューが終わ
ったとたん彼はザ・ビートルズの「ラヴ・ミー・ドゥ」のあのハーモニカのフ
レイズを吹き出した! オリジナルではジョン・レノンが一生懸命吹いたと言
われる印象的なメロディが、スティーヴィの手によりもうひとつふくよかで、
弾んだトーンで吹かれる。うわあああああ。なんか、ジョンとスティーヴィの
像がぼくのなかで立体的に重なった。その後、写真を撮られている(写真を撮
る前に、メイク担当の人から少しファウンデーションを塗られたのだが、その
とき眼鏡を取った顔も見ちゃった)間もスティーヴィはごきげんにフリーフォ
ームでハーモニカを吹く。うひひひひい。まさか、彼のハーモニカ演奏をこん
な間近に、生音で聞けるなんて。夢みたい。彼のハーモニカの音はけっこう大
きめでファットな音色、CDなんかで聞くことができる音はもう少し軽い音質
で収められていると思った。それは、スティーヴィの好みなのだろうか? あ
あ。間違いなく、今年の裏ベスト“ライヴ”。至福じゃ。

 とともに、この日の取材はぼくの今年の“音楽仕事”で一番印象深いものと
なるのも間違いない。というのも、インタヴューの内容をスティーヴィの兄の
ミルトンに褒められちゃったんだもん。終わった途端、横で聞いていた初老の
男性がぼくに歩みよってきて、「一番いいインタヴューだよ。ありがとう」と
握手を求めてきたのだ。誰かと思えば、兄というじゃないか。やったあ、って
感じで達成感ありあり。自慢になちゃってゴメンね、人間できてないもので。
眼鏡をかけて短髪の彼は肌の色も比較的薄目で、スティーヴィとはあまり似て
いない。どことなく、キース・ジャレット(2001年4月30日)に似ている
なあという感想をユニバーサルの宣伝担当の人(ジャレットも日本ではユニバ
ーサル所属)にもらすと、同意された。

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