UAの公演は昔に一度見たことがある。デビューしてそんなにたっていない
ころ、場所は渋谷のオンエア・ウェストだったっけ。この日は、クラシック用
会場の錦糸町・墨田トリフォニーホール。本人もここでできたのを喜んでたみ
たいね。

 解放感のあるステージ上にメンバーたちとともにあっさりと出てきて、アカ
ペラから始まりすうっと伴奏陣が音を入れる。ギター、キーボード/バスクラ
、リード、トランペット、生ベース、ドラムスという布陣。三管楽器が付くの
が肝か。ジャズ的な流動性/発展性、各種エスノ音楽応用の脱西欧規格ノリを
介したサウンドのもと、声をそれに対峙させるというよりは巧みに踊らせる。
いろんな歌い方、声を聞かせたりも。歌唱じたいはとっても上手い人とは思わ
ないが、様々な面白い音楽語彙や担い手を引きつけ、自分が核になって統合さ
せちゃう。それはOK、すごいとぼくは思う。

 それにしてもサックスをいろいろと吹き分ける菊地成孔はやっぱり素晴らし
い吹き手。なんか、サウンドに広がる感じや風穴をいろいろと開けていた。そ
のバンド音は塊感があまりなく、とりとめなく拡散していく感じがあったが、
それは意図的なものなのか。それとも、会場の音響特性も影響しているのか。
なんにせよ、アコースティック・ベースはもう少しいい音で鳴らしてほしかっ
た。

 いろいろと“目”と“臍”のあるパフォーマンス。前半はAJICO(2001
年3月19日)曲を含む過去作からのピックアップ曲をやり、後半は新作『SU
N』からの曲をやる。多少の落差はあるが、この編成ヴァージョンのものにな
ってい、違和感はほぼない。しかし、やっぱり新作の曲は難しいというか、と
りとめもない曲調ね。パっと聞いただけじゃ、覚えられない。彼女は胸を張っ
て、思うまま闊歩しようとしているナと改めて思った。しかし、MCをしない
のは本当にいいなあ。

 錦糸町に来る前に、渋谷の東芝エンターテイメント試写室で、ヴィム・ヴェ
ンダーズの『ソウル・オブ・マン』を見る。昨年、米国のお上が“イアー・オ
ブ・ザ・ブルース”と決めたことで、マーティン・スコッセッシが号令かけて
、いろんな監督に撮らせたなかの一本。おれ、スコセッシもヴェンダースもと
もに思い入れのない人なんで、別になんの期待もしなかったけど、これはなか
なかでした。相当に、良かったな。詳しくは書かないが(雑誌用に原稿を書か
なければならないのだが、気分だけを煽るような感じで、ちゃんとデーターを
紹介しない配付資料にはムカっ)、映像の作り手として胸を張ったブルーズに
対する思い入れのまっとうな発露がそこにはあった。とくに偉い、と思わせら
れたのは、単音垂れ流しギター・ソロのためのブルーズ・フォーマットではな
く、ちゃんと情感としてのブルーズに着目していたこと。それから、この映画
の柱に据えられたブラインド・ウィリー・ジョンソン、スキップ・ジェイムズ
、J.B.ルノアーという三故人のカヴァーをやるロック有名人(ジョンスペ、ベ
ック、ルー・リード他。他に、カサンドラ・ウィルソン等も)たちの演奏の聞
き応えのあること。情感としてのブルーズ・バンドを組みたくなった。ああ。

                   

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