前日からケルン。そして、この日はクンターブンカー・ミュライムという
ヴェニューでのライヴ。元々は防空壕のために作られた建物だそうだが、外
見や中の感じは作りのしっかりした立派な箱という感じ。そこにはギャラリ
ーみたいなものもあり、ホールのスケジュールを見ると、連日いろいろとラ
イヴをやっているようだ。この日は彼らがメイン・アクトで、ケルン日本文
化会館が主催となるもの。それ耳慣れないかもしれないが、国際交流基金(
独立行政法人)が日本の文化を紹介しようとする目的で海外に置く会館/事
務所の一つだそうで、そこは普段からいろいろな日本人の文化的所作を現地
の人に提供しているようだが、ROVOの公演をバックアップするとはやる
なあ。その音楽性ならばスタンディングの会場がいいだろうということで、
わざわざこの会場を借りたとのこと。話は飛ぶが、会場で買った飲み物の瓶
をカウンターに戻すと50セント返してくれるのには、おおドイツだなと思う。

 前座についたのは、ズー(ZU)という、イタリアのロッキッシュな狼藉
ジャズ・バンド。9時過ぎにまず彼らが演奏を始めたのだが、こりゃ良い。
バリトン/アルト・サックスと、電気ベースとドラムというトリオ編成(ず
っとその編成のようだが、後述する新作は、そこにもう一人リード奏者が加
わっている)にて。のっけの感想は、ハードコアな歌なしのモーフィンとい
うもの。それから、メルスを体験したばかりということもあり、82年に同レ
ーベルから華々しくデビューしたオディーン・ポープ(テナー)のはみ出し
トリオ表現(リズムはジェラルド・ビーズリー:3月24日とコーネル・ロチ
ェスター)の今様世代表現という感想も得たかな。他にも80年代初頭のジェ
イムズ・ブラッド・ウルマーの偏執的なリズムの畳みかけを思い出させたり
、良質な冒険ロック系アクトの飛翔感やいびつさを感じさせたりも。なんに
せよ、発想も技法もいろいろと豊富で、俺たちは自分たちのやり方で世間に
波風たてる音楽をぶちかましたいという意思が漲る。まっとうにして明晰な
フリー・ジャズの語彙とロックの狼藉/変調語彙と拮抗がそこにあった。

 30歳前後の彼らは、なんでもザ・ルインズや大友良英らとは一緒にツアー
を回ったことがあり(メンバーはボアダムズのことも知っていて、その山本
精一を擁するROVOとの共演を喜んでいた)、この11月に来日するそうな
ので要チェック! 米国にも進出していて(ユージン・チャドボーンとは特
に親しいようだ)、01年盤『igneo 』はスティーヴ・アルビニのエンジニア
リングでシカゴで録られている。また、新作の『Radial』はカルテットとし
てのズーの演奏が半分と、残りはハミット・ドレイク(5月31日)らのカル
テットであるスピースウェイヴの共演曲で、そっちではサン・ラーやAEO
CやP−ファンクの曲をカヴァーしている。

 そんなズーに続いて、ROVOの実演。場所も違えば、持ち時間も違うの
で、メルスとはかなり異なる感じで、実演はぐびぐび進んでいく。バンドは
、音楽は、まさに生き物……そんな当たり前の事実に気持ちよく触れる。入
りはいまいちだったけど、美味しいライヴの磁場は生まれていたはずだ。こ
の日はステージ背景がバックが白い壁なので映像も映る。アンコールを終え
たときは12時ぐらいにはなっていたか。

 翌3日、電車でアムステルダムへ。ちょっとうとうとして起きたらオラン
ダに入っていて、本当に土地が平坦なのに驚く。アムスに近づくと線路ぞい
にアヤックスのホーム・スタジアムがあって胸がときめく。かなり前にスキ
ポール空港に乗換えでは寄ったことはあるが、ちゃんと足を踏み入れるのは
初めて。さすが、ドイツよりサバけているとすぐに感じられるし、英語も通
じやすいし、こっちのほうが過ごしやすいかなと直感的に思う。運河の水は
見た目はきたない。
 
 この日の公演会場は、キャンディ・ダルファのお父さんハンス・ダルファ
ーがかつてマネイジャーをしていたこともある、同地の有名ヴェニューのパ
ラディソ。教会だったものを改造したらしい立派な作りを持つ。オランダで
外タレがやる最たる会場とのことでアムスのリキッドルームみたいな印象を
持っていたが、思っていた以上に重厚で広い。楽屋などは地下にあるが、本
当にいくつもの部屋があり、迷路みたいだ。階段とかには、このハコの出演
者告知ポスターが張ってあって、ノーナ・ヘンドリックス、そして(キャプ
テン・ビーフハートの、ビーフハート抜きの)マジック・バンドのそれが並
んで張ってあって、嬉しくなる。その近くには、ハード・ロック・カフェが
あった。

 ROVOはサブのステージに出る。広いメインのステージのほうの出演者
はなんとサンフランシスコのオルタナ重鎮、タキシードムーン(こっちに出
るのは、彼らだけのよう)。懐かしい。昔、ライナーノーツを書いたことを
思い出した。上部のほうから彼らのリハを少し覗く。管楽器を持ち替えたり
しつつ、淡々と大人のやり口で広がりを求めん、ということをやっていた、
かな。

 サブのホールもそこそこの広さがあり、ROVOはそこに最初のバンドと
して登場。アタマから客の入りもなかなかで、観客の反応も良好。環境の良
さもあり、この日のパフォーマンスがこれまでの欧州編のなかでは一番良か
ったのではないか。少なくても、ぼくはそう。煽情的にぐいぐいと鼓舞する
力とすうっと気持ち良く力を抜かせるようなメロウネス、その美味しい交錯
を存分に体で受ける。今があり、エッジがあり、桃源郷があり……それらは
確かな人間が重なり合った末に広がっていくのだとという実感がたまらなく
嬉しい。こんなの、おまえらの周辺には重なるものがないだろとも短絡的に
思い、威張りたくなる。開演前にたまたま立ち話をしたパラディソのスタッ
フにROVOの説明をしたら、面白そうだから覗きに行くよと言っていたが
、その彼がぼくを見てニコリと親指を立てる。一番目のバンドながら、RO
VOはアンコールにも応えた。「彼らのことは知らなかったけど、クール!
 日本には凄いバンドがいるんだね」、分別ありそうな30オトコはぼくにそ
う話しかけてきた。また別の女性は、「繊細で人間的だけどハイテックで、
瞑想的でもある。とっても多様な、インクレディブルなバンド!」と言う。
オランダ人たち、きっと東洋の神秘を目いっぱい実感したに違いない。

 ROVOの後はアメリカのザ・サンバーンド・アンド・オブ・ザ・マンバ
ー、そしてノー・ネック・ブルース・バンドが出たはず。前者だけ少し見た
が、儀式っぽいのりで、なんか聞く者を引きつけるぐだぐだ感覚のサイケ・
ギター・ロックを展開。その次のバンドも同様の音楽性を持つようで、この
日は異国のサイケ〜奥に含みある嵐の感覚を持つバンドを集めたとなるのか
しらん。次のバンドの音を聞きつつ、ROVOは非常な精緻さ、得難い飛翔
感やメロウさと裏返しの鋭利さを持っていることを再確認。その後、1時ぐ
らいに玄関の横を通ったのだが、各ライヴは終わっているはずなのに列をな
している。ここ、深夜はクラブ営業をしているらしい。

 翌朝、ROVO一行とは別れ、帰途につく。よく飲み、よく食い、時間は
少ないながら良く寝て、なかなか元気な旅だったなあ。ROVOは翌日ベル
ギーのブリュッセルでギグを行ったあと渡米し、NYとシスコで公演を行う
という。いろいろなことあり。当然のことながら、バンドのツアー、特に海
外のそれに触れるとやっぱりいろんな機微を感じる。(*この項次の日に少し続く)

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