このフェスはでかいドーム型の会場がメインで、そこでゆったりしたスケ
ージュールのもと、約1時間の枠(けっこう、みんなはみ出す)で演奏する
。とともに、土、日、月はそのメイン会場パフォーマンスが始まる前に公園
の端のほうにある音楽学校のホールで、特別性の出し物が二つ提供される。
それは、11時から2時間強。一つが、“ロスト・イグザイル・VI”と名付け
られたフェス出演者たちによる玉石混合一発セッションであり、もう一つが
“ソウル・ソニック・サーカス”というアクロバット大道芸と腕利き多数の
セッション・オーケストラの掛け合わせ出し物。

 で、この日はソウルソニック・サーカスをまずチェック。犬までメンバー
に記されていてどうなるやらと思ったら……。ロブ・ワッサーマンからDJ
ロジック(2000年8月11〜13日、他)まで、いろんな人が10人強ずらり。と
きにアブストラクトな演奏に合わせて、天井から吊るされている紐を用いる
曲芸を中心に、音楽と芸の拮抗ショウが展開される。メルスは同祭だけの出
し物が組まれたりもするようで、これもそうらしい。単純に楽しく、興味深
い。アリです。それが終わったあと、もう一つのセッション会場のほうを覗
く。トパーズのリズム隊大活躍。いろんな奏者の順列組み合わせ。3、4、
5人の組み合わせあたりが中心。同フェスの通は、この午前中セッションを
まず楽しみにしているという話もなるほどと頷けます。

 そして、メイン会場に戻り(その行き帰りの風景がまた楽しい)、2時か
らの出し物を見る。まずはフランスのジャズ・オーケストラ、Le Sacre du
Tympan。最初、ステージ裏のほうで聞いてて素人くさいベースだなと思った
ら、その人が作曲/指揮役を担うリーダー。気持ちは判らなくもないが、フ
ランス人はイモだと言われてもしかたがない集合演奏でした。

 そして4時近くになって、ROVOが登場。やっぱ、どきどきする。裏で
は不十分なセッティッグでの開始を余儀なくされるなどあったようだが、緊
張感ある音で突っ走る。この日は晴天でテント上部が開けられ、プロジェク
ター映像が薄くしか映らなかったりもするが、誰でもないROVOのうねり
つつ疾走し、紋様を描いていくような音はメルスの地でも異彩を放ち、それ
だけで多くの人の耳を射るものではなかったか。百戦錬磨なメンバーたちは
、あらゆる負荷をはねのける強さ、シャープさを持っていたはずだ。どんな
地からジャンプしようと、ジャンプしたらそれは美しい放物線を描く。ジャ
ンプしちゃったら、ROVOの勝ちだ。見てて、ザマーミロ、という気持ち
も沸き上がる。終演後、アンコールを求める多大な拍手。だが、場内音楽が
流されてアンコールはなし。すると、今回のフェス初のブーイングがおこる
。そうだそうだ。丸い小屋の空気を、ROVOは確実に入れ換えた。

 続いては、けっこう世界進出しているみたいな、モンゴルの近くの生まれ
の女性歌手のSainkho Namtchylak。顔は加藤登紀子みたいだ。NYダウンタ
ウン派のネッド・ローゼンバーグ(彼女のアルバムに複数参加している)や
ロシア人しらいサンプラー担当者やドラマー(この二人は普段一緒にやって
いる人達か)のサポートを得て、彼女は同地の伝統的歌唱法をインプロ要素
やモダン志向と掛け合わせようとする。うーん。途中で耳に入れるのをパス
。如何にビョークは実があり、聞いてて心に入ってくるかを思い知らされる
。その後、ドイツ人とアメリカ人によるカルテットが出たはずだが、街中に
ご飯を食べに行っていて見ていない。

 8時すぎにレバノンのラッパーのClotaire Kを見る。黒人補助ラッパー
、ベースとドラムのリズム隊、そしてDJを従えてのステージ。普通のヒッ
プホップみたいな曲調のものもあるが、それであっても生リズム・セクショ
ンが付くそれはがちんこ〜がらっぱちに聞こえ、ぼくはOKを出す。で、そ
れだけじゃなく、半分近くの曲でClotaire Kはウードを弾きながらラップを
し、またDJもそれっぽい女性声や楽器音をインサートしちゃう。うはは、
かなり聞きどころある、おいしい担い手なんではないか。うふふ。

 そして、最後はマーズ・ウィリアムス率いるリキッド・ソウル(DJロジ
ック付き)。今年度の同フェスのポスターの絵柄は彼のでっかい写真を掲げ
たものであるなど、さしずめ今回のメイン出演者という観もあるウィリアム
スは米国白人ジャズ史に名を太字で残さなければならない大偉人ハル・ラッ
セルのNRGアンサンブルのメンバーだったサックス奏者だが、なんとこっ
ちに着てから交通事故に会ったとかで欠席。だけど、もうリキッド・ソウル
自体は10年近く活動を維持しているわけで、それほど支障はないと思われる
。ところで、メルス出演者にリキッド・ソウルの名を見つけたときには我が
目を疑った。ぼくの認識においては(数年前に斑尾のジャズ祭に出演したこ
とがあった)、ときにラッパーをフィーチャーしての芸のないシアッド・ジ
ャズ/ファンク・フュージョン・バンドであったから。ただ、ウィリアムス
の出自はシカゴのフリー・ジャズにあるわけで、何か新しい展開があるのか
と思ったら、既知どおりのパフォーマンスで拍子抜け。15年前ならいざ知ら
ず、今どきこんなこと大見得きってやられても……。ちょっと、イラついた
。でも、客には大受けでした。汝、左も右も寛容に愛しなさい……、か。

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