どすこい&アーシーな米国黒人音楽についての生理的理解や物質的技量は日本一ではないかとぼくは信じている女性シンガーの菅波ひろみ(2017年12月1日)と関西のブルースが得意な人たちによるライヴ。ツアー中の一環で、高円寺・JIROKICHII。そのバンド構成員は、オルガンの花田えみ、ギターの 篠原裕、ベースの中島かつき、ドラムの平岡タカノリ。もっとおっさんたちかと思ったら、皆さん意外に若そうで、主役との息もあっていた。噴出感をちゃんと出せるオルガン奏者はとくにいい感じだったな。

 ブルースやサザン・ソウル系統にあるもやもやした大海を鷲掴み。そして、声には良質なブラック・ミュージックに不可説な濁りの感覚や熱情あふれる歌声とフィーリングあり。イエイ。冒頭2曲がブルース曲で、アリサ・フランクリン曲も二つやり、ニューオーリンズ調も二つ。エタ・ジェイムズやココ・テイラーの曲もあり。アラン・トゥーサンの「イエス・ウィ・キャン」の際にザ・ミーターズ曲に入っている特徴的な肉声パートをバンド・メンバーたちが3つに分けてつけ、それを観客に歌わせるなんてこともした。客扱いも、お上手。そして、彼女にはいいファンがしっかりついていることも再確認。ファースト・セットで場を離れるのが、悲しくてしょうがなかった。

▶︎過去の、菅波ひろみ
https://43142.diarynote.jp/201712031012091034/

 その後は三軒茶屋・グレープフルーツ・ムーンで、オランダ人のシンガー・ソングライターのゴスト(2017年9月15日)を見る。間に合わないかと思ったら、ちゃんと彼の出番の前についた。

 おお、アーティストは生き物。前回見たときと大きく異なる印象を受け、彼が異なるモードにあることを実感した。前回はキーボードを弾きながら歌い、その歌にはエフェクトがかけられ、そこにドラマーが付いていた。←ゆえに、同じ編成でライヴをやるジェイムズ・ブレイク(2011年10月12日、2013年6月4日、2017年2月25日)をまずぼくは想起したわけだが、今回セミ・アコースティック・ギターを弾きながら歌う(エフェクトなし)様はもっと歌心に富むフォーキィ表現の好担い手という像を得た。少しレトロとも思わせる素直な歌心を天衣無縫に泳がせる感じを、今回はおおいに受けた。歌詞はすべて英語。

 今回も1人のサポート奏者ありで、アムステルダム在住の英国人がアコースティック・ギターでサポート。彼は随時ハーモニー・コーラスもつけ、それも効果的。一方、ゴストは横にサンプラーを起き、簡素な下敷きビートを敷く場合もあり。そのサンプラーには日本語の女性の声が何種類も入れられていて、曲間には適時そのプリセットMCが使われる。あら、それ意外なくらいいいじゃん。なんか、彼の気持ちやお茶目さがちゃんと伝わる。

 基本は、オーセンティックなシンガー・ソングライター的な姿を優男風情を介してアピール。一部かつてのマイケル・フランクス(2013年10月29日)が今にワープしたような、テンダー&メロウ味もあり。それからやはりユーロ感覚もどこかに出ていて、ぼくは今回の彼の実演にクレスプキュール・レーベル(1980年代下半期が黄金期の、ブリュッセルの都会派レーベル)が抱えていた洗練ポップネスの残り香も感じたかな。

 やまぬ拍手のもと急遽応じたアンコールは、1人でボブ・マーリーの「リデンプション・ソング」を披露した。その力のあり様にびっくり。歌声が大きく、何かを照らさんとする力が大。へーえ、30歳になったばかりの彼のなかにはそういうヒューマン・ソングがしっかりとあるのか。

▶︎過去の、ゴスト
https://43142.diarynote.jp/201709160841239914/
▶過去の、ジェイムズ・ブレイク
http://43142.diarynote.jp/201110161924242614/
http://43142.diarynote.jp/201306060730086224/
https://43142.diarynote.jp/201702261130301434/
▶︎過去の、マイケル・フランクス
http://43142.diarynote.jp/201310301217408539/

<今日の、初めて>
 2軒目の三軒茶屋にあるハコには、初めて行く。おお、太子堂中央街に足を踏み入れるなんて、20年ぶり? その屋号にあった明るい感覚を持ち、見やすくもあり、なかなかに好印象。カウンターにはアルバム・ジャケットが飾ってあったが、洋楽好きの人が開いたお店であろうか。でも、ぼくがここに初めて来たということは、普段は日本人ミュージシャンが主に出ているのかな。

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