虎ノ門のソニー・ピクチャーズ試写室で、6月公開の2018年米国映画を見た。のだが、これがびっくりするほどの音楽=ロックを扱う映画で驚いた。レコード屋の場面や曲を作ったり、楽器を演奏するシーンの割合は意外に高い。ブレット・ヒリー監督作品。

 舞台はブルックリン。かつてバンドをやっており今はアナログ専門のレコード店を17年間(だったか?)持っているおっさんと、その娘が主人公。音楽仲間だったアフリカ系の奥さんは事故死して、シングル・ファーザーとして育て、ミックスで同性愛傾向にある娘は秋からUCLAの医学部に進むことになっている。ときに父娘は自宅でセッションし、そうして出来上がった曲をスポティファイに登録したところ……。

 主人公のレコード店はかなり立派。それ、わざわざしつらえたのか? 店は赤字で主人公は貧乏人となっているが、タバコはスパスパすうし、自宅スタジオも持ち、楽器や機材も揃っていて、側から見るとそれなりに豊か。アナログ店ということで時代遅れなおっさんかと思えば、いろんな機器も使えるようだし、お店の大家である中年女性にアニマル・コレクティヴ(2008 年3月18日)の2009年作をこれはいいよと勧めたりもする。

 なんか劇的にストーリーが動いていくのかと思わせれば、それはなく(やろうと思えば、いくらでもできたろうに)、映画は淡々としたペースのもと流れる。が、それも悪くなく、それゆえに、本作は音楽映画でなく、音楽好きの父と娘のつながりを描いた映画という位置を得るのではないか。

 ただ、とても残念だと思えたのは、ブレット・ヒリー映画に過去にも関与しているらしいキーガン・デウィットという音楽家が作る父娘合作曲群がいまいちなこと。娘役のカーシー・クレモンズの歌声はいいのに、それが映画の感興を削ぐ。個人として何枚もリーダー作を出し、現在ワイルド・キャブというバンドをデウィットは組んでいるが、それらをちょい聞きしたらやっぱりぼくの耳には魅力薄だった。ソニーではなく、ミランというインディ発の本映画のサントラはデウィットの曲で占められているが、1曲だけミツキ(2017年11月24日)の曲「ユア・ベスト・アメリカン・ガール」が入れられている。

▶︎過去の、アニマル・コレクティヴ
https://43142.diarynote.jp/200803201208590000/
▶︎過去の、ミツキ
https://43142.diarynote.jp/201711251506243645/

 続いて(移動手段に使った銀座線が激混み〜1つパスしたものの〜で超辟易。各駅で人が乗りすぎでドアの開閉が何度も行われ、そのため倍近い時間がかかった)、南青山・ブルーノート東京で、マデリン・ペルー(2005年5月10日、2006年8月24日、2009年5月18日、2015年9月15日)を見る。ところで、

 神話性。かつて、彼女はそれを纏わされたシンガーだった。ちょっとブルージーな渋味を持ち、またどこかレトロさを持つためであったか。“現代のビリー・ホリディ”なんてあまりにホリデイの暗黒をないがしろにしたキャッチが一人歩きしたこともあった。また1996年にアトランティックから大々的にデビューしたあと、アンコントロールな人らしく、次にちゃんと正規作が出るまで8年を要したという事実も、彼女にある種の神話性〜浮世離れした存在感〜を付与したかもしれない。だが、その後は比較的順調にアルバム・リリースをずっとユニヴァーサル・ミュージック系列からしていて、当初どこかに抱えていた虚無感はなくなり、真っ当な健全さや体重をどんどん増している。

 曲によりギターや6弦ウクレレを手にしつつ歌うペルーを、キーボードのアンディ・エズリン(2017年12月7日)、エレクトリック・ギターのジョン・ヘリントン(2009年5月18日、2015年9月15日)、エレクトリック・ベースのポール・フレイザー(左利きの彼のみ、アフリカ系)、レギュラー・グリップで丁寧に叩くドラマーのグラハム・ホーソーンがサポート。皆さりげなく達者で、主役との信頼関係もばっちり取れている。ときに見せるバンド員のコーラスもいい感じ。で、これまで見たなかで、彼女は一番シンガー・ソングライター的なパフォーマンスを披露していると思えたか。実際、新作はオリジナル主体であったわけだが。

 気負いゼロで鼻唄キブン(ながら、歌の存在感あり)でショウを繰り広げる様は刺々しいものは皆無、彼女が普段着感覚のもと自然体で気分よく表現に当たっていると痛感させる。そして、その奥から、アメリカン・ミュージックの襞のようなものがうっすら浮き上がるのも当然のことのように思えた。そういえば、アラン・トゥーサン曲「エブリデイ・アイ・ドゥ・ゴンー・ビー・ファンキー(・フロム・ナウ・オン)」もやったな。また。仏語やスペイン語で歌うものもあった。

 途中3曲だったか、サポート陣が下がり、単独でアコースティック・ギターの弾き語りを披露。なるほど、このようなソロのバスキングを様々な人が見初め、予算のかけられるレコーディング・アーティストへと彼女を導いたのだな。

▶過去の、マデリン・ペルー
http://43142.diarynote.jp/200608271342350000/
http://43142.diarynote.jp/200905191118258984/
http://43142.diarynote.jp/200505141715430000/
https://43142.diarynote.jp/201509231113323904/
▶︎過去の、アンディ・エズリン
https://43142.diarynote.jp/201712081715389473/
▶︎過去の、ジョー・ヘリントン
https://43142.diarynote.jp/200905191118258984/
https://43142.diarynote.jp/201509231113323904/

<今日の、和食屋>
 ソニー・ピクチャーズ試写室の入ったビルの1階には、ロバート・デ・ニーロ出資で知られるレストランのノブ・トーキョーがあった。南青山の六本木通りぞいにかつてあったときもそうだが、駅から遠いところに作るんだな。それ、あちら流儀? あ、こっちはオークラ宿泊客ねらいか。おれ、昔NYで連れてかれたことがあり、不思議な感じを覚えた。今、本当に世界中にあるんだよなー。

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