毎新春恒例となっている、トランペットの田村夏樹とピアノの藤井郷子による、新宿・ピットインの昼の部と夜の部を続けてしちゃう大型公演(?)に行く。昼のほうは、田村と藤井のデュオ、田村とここではアコーディオンを弾く藤井とトロンボーンの金子泰子からなるGato Libre(田村曲を中心としたよう)、田村と藤井とドラマーだがここではかなりパーカッション奏者的な演奏する井谷享志のThis Is It!。どの単位も胸のすく即興と鋭敏なインタープレイに満ちるが、その一方でそれらの飛翔は線の太いメロディや情緒設定に則ってのものであるのだと今更ながら気づかされる。そして、その事実を頭に置くと、どんどん展開して行く様がおもしろいったらありゃしない。空虚ではない実のあるアヴァンギャルドである理由の一端は、そこにあるのだ。

 藤井は日記のように毎日メロディを認めていて、それは様々な彼女が抱えるユニットのレパートリーに使われてきている。そんな彼女は昨年秋に2枚組『Diary 2005〜2015』(リブラ)をリリース。それはアルバム・タイトルにあるように、彼女の2005〜2015年に日々書いた曲(118曲が選ばれている)がシンプルにピアノ一本で演奏されている。ただし、そこで演奏しいているのは、藤井のニュー・イングランド音楽院時代の学友である米国在住ピアニストの山岡優子。なぜ自分で弾かなかったのと問うと、「曲が難しいので、私がやろうとするとレコーディング日数がかかってしまう」。なんの装飾音もつかない、一番素の状態にあるそのピアノ演奏群はなかなかに高貴でクラシックぽく聞こえたりもする。今日のパフォーマンス(新曲が大半であったよう)に触れ、もう一度じっくり聞かなくてはとも思った。なお、『Diary 2005〜2015』の楽譜集も併売されている。音楽をする人は、対照しながら聞くと興味深くてしょうがないんじゃないだろうか。

<今日の、案内>
 この日は新年会があるため、今年は昼の部だけで失礼した。残念である。でも、そちらもとっても楽しかった。藤井は2018年に還暦記念と題し、パッケージとしてもまことプロなプロジェクト違いのCDを1月に1枚、12ヶ月で計12枚リリースした。その酔狂ながら独立独歩なアーティスト活動の自由を謳歌する所作を語った藤井へのインタヴューが、この20日売りのCDジャーナルに出ます。先に触れた『Diary 2005〜2015』もそのなかの1枚だ。

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