渋谷・ル・シネマで、稀代のオペラ歌手であるマリア・カラス(1922〜1977年)のドキュメント映画(2017年フランス映画で、監督はトム・ヴォルフ。3年をかけて作ったという)を見る。要約すれば、“スターは、天才は、つらいよ”という内容か。

 要点は、彼女が自ら認めた未完の自伝や愛人や友人にあてた手紙をソースとすることに成功し、独白としてそれらを朗読する声(映画でマリア・カラス役も演じたことがある、フランス人女優のファニー・アルダンによる。なんか、当人のモノローグのように感じた)によって、彼女の人生がつづられていくこと。ゆえに、多くのドキュメンタリーに見られる周辺者の発言映像はあまりなし。彼女の少女時代の歌の先生の映像は入れられているが、その女性がタバコをぷかぷかしながらしゃべっているのは笑かす。別に完璧に生涯を追っている訳でもないので、映画の統一した流れを得るためにそれは使わない方がよかったのではないか。そのかわり、写真、プライヴェイト映像、舞台映像などはいろいろ出てくるのだが、本当にこれらしかなかったの? 他の音楽ドキュメンタリーに触れてきたぼくには構成/編集があまり巧みではなく(歌唱部分を延々と流すのは、彼女の音楽を大切にしている。と、理解できるが)、画質がよくないものも少なくなく、ネタが貧弱に感じてしまったのだが。アンダーレイテッドな人ならともかく、彼女はそうじゃないでしょ。もし、これらが周到なリサーチの末の決定的な材料なら、カラスは不幸な人だ。

 ギリシャ系アメリカ人(のちに市民権を放棄)で、米国〜ギリシャ〜イタリア〜フランスといったように居をかえ、ある意味、気高くも人間臭く生きた女性……。最低でも、4カ国語はしゃべれたのかな? オペラのオの字も知らないし、今のところは知りたいともあまり思わないが、数奇なストーリーを抱えたマリア・カラスという人には興味があり、ぼくはこの映画を見に行った。なるほどと思わせれるところももちろんあるものの、もどかしさも感じちゃったなー。些細なところでは、もう少しかつての社交界(に出入りしていなかったら、愛人関係にあったアリストテレス・オナシスとも出会わなかったろう)やセレブリティについて踏み込む部分もほしいとも思えた。やはり、抱えた”世界”がバカでかかったんだろうナというのは痛感させられました。

<今日の、M2>
 昨年末から滞日しているマーカス・ミラー(1999年11月12日、2001年 6月14日、2003年8月19日、2005年8月21日、2007年12月13日、2009年9月15日、2010年9月3日、2013年9月3日、2015年2月21日、2016年9月17日、2017年1月7日、2018年5月16日、2018年5月24日、2019年1月3日)を夕方にインタヴューした。本当はブルーノート東京の年またぎ帯公演の最終日の4日にする予定だったが、この日に変更。すごい、日本にいるんだなー。『アフロディジア』、『レイド・ブラック』(ともに、ブルーノート)と強いアフリカン・アメリカン意識を掲げたアルバムを出していること、ブルース的な要素も孕むサントラ『Marshall』(ワーナー)をリリースしていることもあり、今回の媒体はBlues &Soul Records誌。ところで、彼がフランス語も話せるというのは聞いていたが、フランスのラジオ番組でもしゃべっているということで、ラジオDJ風にフランス語ですらすら喋り始めたのにはおおお。この6月に60歳となる彼、日本では還暦と言い少し特別な意味を与えると伝えたら、アメリカではただ年をとっちゃたねで終わってしまうよなあと返事。例の記念コスチュームのことを教えると、赤い帽子はヤだけど、赤いベストを着てステージに出てもいいかもなーと言ってました。
 なお、現在ミラーが楽しんでやっている 米国ラジオ放送は、車に乗る人がよく聞くというデジタル・ラジオ放送であるSirius XMの”Miller Time"という番組。チャンネル67で、日曜午後6時から9時にかけて放映されているそう。

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