これは、面白い。編集もテンポがあるし、寝不足だったんだけど、ひきこまれ、触発もかなりされたな。

 渋谷・映画美学校試写室で、音楽をするということについてはパラノ(一つにまっすぐ)だろうが、バカみたいにいろんな音楽形態にあたりスキゾ(分裂症)と言うしかない活動を見せる異才ピアニスト/クリエイターであるチリー・ゴンザレス(1972年、モントリオール生まれ。本名、ジェイソン・チャールズ・ベック)のことを扱う2018年ドイツ/フランス/イギリス映画を、渋谷・映画美学校試写室で見る。原題は、「Stay Up And Play The Piano」。

 俺を愛するなら、俺を憎め! みたいなことを連呼する,冒頭のアップ映像でつかみはOK。監督はゴンザレスが現在居住するケルン在住の音楽/カルチャ−系ジャーナリストのフィリップ・ジェディック。2014年にゴンザレスの存在を知り、そのドキュメンタリー映画を作りたいことを申し出たという。快諾されたものの、条件はプライヴェイトな事項を出すのは御法度。だが唯一、彼が育ったプール付き邸宅が紹介され、その父親は東欧ユダヤ系移民で、一代で成り上がりカナダで一番大きな建設会社のCEOをしていることは伝えられる。

 ロック・バンドをやっていたカナダ時代、当初ラップに邁進した最初の欧州の地であるベルリン時代の映像なども交え、その後オーケストラや弦楽四重奏を用いたはみ出し表現にも手を染めるようになる様々な活動が、本人のインタヴュー発言も介して紹介される。ダフト・パンクのトーマ・ハンガルテルを交えたパフォーマンス映像も出てくるし、カナダ時代の音楽仲間であるファイストや、ジャーヴィス・コッカー(パルプ)らの証言などもあり。

 そうした材料を通して、浮かび上がるのは、彼が見事な変人であり、サーヴィス精神に富むエンターテイナー/行動家であるということ。そう見せることを、彼は楽しんでいる。また、ちょっとした彼の指さばきやメロディ感覚やハーモニーが過去の音楽流儀の正鵠をなんか射たものであるのも知ることが出来るだろう。彼をエスタブリッシュさせたのは2004年から世に問うたピアノのソロ演奏群だが、それはまさに<ヒップホップ時代のジョージ・ウィンストン>表現なのだと確信もした。ニューエイジ・ミュージックの第一人者であるウィンストンは<ヒッピー世代のなんちゃって癒しピアノ表現>なるもので、一世を風靡した人だ。

 それから、その自己顕示欲が強い変人ぶりに接し、ぼくは映画「グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独」(2011年10月12日)のグールドの動物園での場面を思い出したりした。この映画において、カナダ人という属性は重視されていないが、両者ともにカナダ人ですね。

▶︎「グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独」
http://43142.diarynote.jp/201110161924242614/

 その後は、六本木・ビルボードライブ(セカンンド・ショウ)で、ニューウェイヴ期を経験するものにとっては記憶に残るヘアカット100を率いたニック・ヘイワードの実演を見る。ハタチちょいながら洒落たセンスを掲げたビート・ポップを作っていた御仁で、1983年からはソロとなり、アリスタ、エピック、チェリー・レッド他から、淡々とリーダー作を発表してきている。彼は今週末のサマーソニックにも出演する。

 まず、ヘイワードの風体におおきく頷く。米国のアイビー・リーガーがファミリー・パパになったようなそれ(また、ポロ・シャツが良く似合う)は、その洒脱な音楽性とも合致して、とてもいい感じ。そしたら、ギター・テックをしていた青年を息子なんだと紹介する。なんか、良い年のとりかたをしているな。

 ステージ上には、全6人。歌とギター(セミ・アコースティック型の電気ギターを弾く。彼の刻みから曲が始められる場合が少なくなかった)のヘイワードに加え、キーボードのアンソニー・クラーク 、ギターのオリバー・テイラー 、テナーやソプラノ・サックスや打楽器のロブ・ディグウィード 、フレット付きとフレトレスの4弦電気ベースを弾くフィリップ・テイラー 、ドラムアンドリュー・トレーシー という面々がにこやかにサポート。サポート陣は、30代だろうか。


 ヘイワードは昨年『ウッドランド・エコーズ』(Gladsome Hawk)というとても久しぶりのリーダー作を出し、そのジャケット・カヴァーには田舎の森林と湖を描いたほのぼのした絵が用いられていたが、その内容は乱暴に言えば<都会人が描く、田舎に憧れるくつろいだポップス>と言いたくなるもの。かなりな好盤でぼくは新作曲だけを披露する実演でも良かったのだが、ヘアカット100時代の人気曲やソロ初期曲等も披露(したよな?)。ま、それも悪くなく、秀でた英国ポップ・ロック〜ギター・ポップの担い手であることが自然体でやんわりとアピールされたショウだった。この手のなかでは何気に尺が長めで、彼の真心と表裏一体のやる気も伝わってきたな。

<今日の、物忘れ>
 ライヴ三昧の終わりにある<今日の〜>の文章が好きなんですよと、たまに言われる。あざーす。おだてられて木にのぼるタイプなので、褒められるのは素直にうれしい。よくネタに困りませんねとも言われこともあるが、本文の原稿を書きながらのその日あったことを振り返れば、一つや二つはネタがたいてい出てくる。でも、外で<今日の〜>のネタになるなと思っても、忘れちゃう場合もよくある。メモ取ったりしないし。実は今日もふむふむ好マテリアルだと思えたことがあったんだが……すっかり忘却。というわけで、こういう内容にしてみた。

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