女性を中央に立たせ、その横や奥に男性3人がいるというライヴを二つ見た。南青山・ブルーノート東京→丸の内・コットンクラブと移動する。

 前日の項において該当アーティストを説明するのに、<ジャズ系ジャズ・ヴォーカル>と<歌謡曲系(フンイキ)ジャズ・ヴォーカル>があるというような書き方をした。そして、それにならえば、もともとジャズ系(リアル・)ジャズ奏者であるところ、歌謡曲(和み)ジャズ奏者的な行き方を大枠で取ることで、ジャズ・ギター表現の可能性を広げるとともに、名声も拡大させたのが、ビル・フリーゼル(2000年7月21日、2006年5月14日、2009年5月8日、2011年1月30日、2017年1月12日、2017年1月13日)と言えるだろう。

 フリゼールはもともとはNYボーダレス界隈にいて、気が弱そうなのいに素っ頓狂で暗いことをやるジャズ・ギタリリストで、”ジミ・ヘンドリックスの流儀でジム・ホール(2005年1月18日、2012年6月4日)を演奏する”なんて、キャッチもあったか。今や、ネイキッド・シティにいたなんて信じられませんね。1980年代の彼はECMとディールを持ってきたが、エレクトラに移籍し、その後1992年代頃から彼はもっとメロディアスだったり地に足をつけた感覚を持つ素材を取り上げ、一見優しい&素朴な筋道でギターを爪弾くようになり、好評を得た。そんな彼のその路線は、<アメリカーナ>という言い方もときにされますね。

 当人にくわえ、ダブル・ベースのトーマス・モーガン(2012年6月24日、25日、2013年9月7日、2017年3月2日)とドラマーのルディ・ロイストン。そして、さらにはフィーチャード・シンガーとしてペトラ・ヘイデン(2009年1月21日、2016年4月27日)が入る。彼女は1曲以外はすべて歌った。アフリカ系であるロイストンはフリゼールやトランペッターのデイヴ・ダグラス(彼のレーベル“グリーン・リーフ”から2作ほどアルバムを出している)、テナー・サックス奏者のJDアレンの諸作などで叩いている御仁だが、これはいいドラマー。瞬発力と強弱をうまく用いつつパルシーな波のようなビート(それを、ぼくはエルヴィン・ジョーンズ以降のそれ、と言いたくなる)を出す様は大マル。なるほど、通受けするトーマス・モーガンとのコンビもおもしろいなあ。

 とは言いつつ、どこか乗り切れない部分も覚えたワタシ。それ、しかと歌えるペトラ・ヘイデンのせいではないよな? 音程もサウンドの機微を読んでの広がりの出し方ももう巧み。でも、いまいち直に響いてこないと、どこかでぼくは感じてしまった? 昨年の彼女とジェシー・ハリス(2002年12 月21日、2005年9月7日、2006年1月23日、2006年4月22日、2007年3月11日、2009年3月31日、2010年10月10日、2011年8月6日、2012年7月16日、2013年5月26日、2016年4月27日、2016年9月8日、2017年6月10日)の双頭公演(2016年4月27日)をぼくは評価していないが、それはペトラ・ヘイデンのせいもあったのか? その前のショーン・レノンとやってきた際(2009年1月21日)はこの喉はすごいと感嘆したのだがなあ。

 曲は、デイヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」をやったのにはビックリ。少し一緒に歌ってしまったよん。他は映画曲やMOR調曲をやりロック曲は披露しなかったが、もっと懐かし著名なロック曲をやって欲しい! フリゼールは弾いた音をサンプリングして控え目に出した場合もあり。それ、やらなくてもいいんじゃないかな。ぼくは今年1月のチャールズ・ロイド(2005年5月11日、2008年4月6日、2013年1月6日、2017年1月12日、2017年1月13日)のサポートで来たとき(2017年1月12日、同13日)の演奏の方がグっと来た。そういえば、ぼくはかつてフリゼールはリーダーのときよりサイドの際の方が冴える、と原稿に書いたりしていたっけ。

 それから、疑問を感じずにはいられなかったのは、ステージでの立ち方。ちんまり奏者3人はかたまり(そして、ヘイデンは真ん中に位置する)、向き合うように演奏する。すると、ブルーノート東京のように横に長い会場だと、フリゼールの手元や顔が半分の人には見ることがまったく不可能となる。こじんまりと立った方がやりやすいからそうしているんだろうけど、微笑みながら演奏するこの路線は火花を散らすような行き方はとっていないわけであるし、そこまで密に立たなくても……。偶然、ぼくはフリーゼルを正面から見ることが可能な横側の席で見ていたのだが(逆に、モーガンは背中しか見えなかった)、プロの表現者としてもう少し見る人たちのことを考えてもいいのではないかと思えた。演奏だけでなく、そういう部分にも余裕を持っていただきたい。

▶過去の、ビル・フリゼール
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-7.htm
http://43142.diarynote.jp/200605160543260000/
http://43142.diarynote.jp/200905101005501321/
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▶︎過去の、ジム・ホール
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▶過去の、ペトラ・ヘイデン
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▶︎過去の、トーマス・モーガン
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▶過去の、ジェシー・ハリス
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▶︎過去の、チャールス・ロイド
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 その後は、丸の内へ。ピアニストのビル・オコンネル(1953年、NY生まれ)はラテン・ジャズとハード・パップの両方で活動してきている奏者で、今回はトリビュート・トゥ・デイヴ・ヴァレンティン(2004年4月5日。2017年3月8日)と名目されたショウを持つ。ダブル・ベースと6弦のフレットレス・ベースを器用に弾く(ジャズぽいときは電気で、ラテン色が濃い方の時は縦を弾いたと指摘できるか)リンカーン・ゴーインズ(2012年5月11日、2012年6月21日)と、ドラマーのロビー・アミーン(2000年1月12日、2001年5月15日、2002年7月24日、2003年8月9日、2004年4月5日、2011年12月8日)をサイドに擁する。久しぶりに見たロビー・アミーンは少し老けたなと思わされたが、シャープな叩き口なんだけど出音が大きい。ブラシを使った際も音がデカい。でもって、少し走っているんじゃねえと思わせるほど闊達に叩く。そんな彼は左足でキックするカウベルも、ハイハットの外に設置。多くはスネアの横にある別のカウベルをスティックで叩くが、時には足で出す方も絡める。おお、それはアミーンならではだな。

 そして、2曲目からは、若いときは少しルックスでも話題になったかもと思わせるラテン・ジャズ畑で活動してきているフルート奏者のアンドレア・ブラッチフェルドが加わり、的をいた演奏を乗せる。同じ持ち楽器ゆえ、彼女はヴェレンティンには多くの薫陶を得てきたのは間違いないだろう。終盤には、オコンネルと彼女のデュオも披露。彼女は曲によってはアルト・フルートを吹いた。少し大学教授ふうと言えなくもない風貌のオコンネルはときにこれ見よがしなフレイズを出す場合もあるが、指さばきは確か。ジャズとラテン・ジャズの比率は少しジャズの方が高かったかな。トリオでやったオープナーは、ウェイン・ショーターの「フット・プリンツ」。彼はザ・ラテン・ジャズ・オールスターズ名義も併記した新作『Heart Beat』(Sarvant,2016)でもショーターの「ESP」をオリジナルに交え取り上げていて(すげえラテン化されている)、ショーター好きなんだな。
 
▶︎過去の、リンカーン・ゴーインズ
http://43142.diarynote.jp/?day=20120511
http://43142.diarynote.jp/?day=20120621
▶︎ロビー・アミーン
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▶︎過去の、デイヴ・ヴァレンティン
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▶︎過去の、ロビー・アミーン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-1.htm キップ・ハンラハン
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http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-7.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-8.htm キップ・ハンラハン
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<今日の、フルーゼルのショウについての追記>
 この顔ぶれは、ポール・モーシャンの『The Window of Your Mind』(Winter & Winter,2011)に端を発するものだろうか。故モーシャンの代わりに、ルディ・ロイストンを入れると、この晩の面々、もといフリゼールの近作『星に願いを』(ソニー、2016年)の顔ぶれとなる。その『星に願いを』はモリコーネ曲が多かったというイメージがあるが、この晩は「アルフィ」と「ホワット・ザ・ワールド・ニーズ・ナウ」とバカラック曲を2つも取り上げていた。
 終演後に、10年以上ぶりに会う知人と少し立ち話。彼はプログ・ロックの愛好者なはずだが、ペトラ・ヘイデンのファンで見にきたという。それで、ザット・ドッグの新作はいつ出るんですかねと問われる。再結成していたとは、知らなかった。実は、チャーリー・ヘイデン(2001年11月20日、2005年3月16日、2009年9月10日)の娘はペトラ、レイチェル、ターニャの三つ子(1971年7月11日生まれ)で、ザット・ドッグは歌とフィドルのペトラと歌とベースのレイチェルと名制作者のレニー・ワロンカーの娘で歌とギターをやるアンナとドラマーのトニー・マックスウェルが組んでいたバンドで、1990年代にゲフィンから3枚のアルバムを出した。そのファーストにはターニャも歌で入っていた。ちなみに、レイチェルはアジアン・カンフー・ジェネレイションと絡んだことがあり、ターニャの旦那は俳優のジャック・ブラックだ。
 すでに、フリセールはトーマス・モーガンとの連名でECMから『Small Town』という淡々路線のデュオ・アルバム(制作とミックスはマンフレッド・アイヒャー。自作やモーシャンやリー・コニッツや007曲「ゴールドフォインガー」曲を取り上げている)を出している。このアルバムをフォロウする公演をデュオにて1日するのもアリだったんじゃないだろうか。
▶過去の、チャーリー・ヘイデン
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