デヴェンドラ・バンハート。ピーター・アースキン・ニュー・トリオ
2017年5月10日 音楽 え〜、この人が来ていたの? そんな声も上がりそうな公演を二つ見る。奇しくも、二人ともブラジルとの関連がある。ともに、今日1日限りの公演だった。
最初は、六本木・ビルボードライブ東京で、べネズエラ育ちである米国人シンガー・ソングライターのデヴェンドラ・バンハート(2010年2月4日、2011年8月4日)の公演を見る。
まず、同行バンド・メンバーであるブラジル人シンガー・ソングライター/クリエイターのホドリゴ・アマランチが一人ふらりと出てきて、3曲エレクトリック・ギターを爪弾きながら歌う。元ブラジルの人気バンド、ロス・エルマーノスの一員。マリーザ・モンチ他への楽曲提供/客演で知られる彼はポル語と英語曲の双方を歌う。LAに住むようになって10年ほどたつが、ポル語の場合はボサっぽい寛ぎ感が前に出て、英語の場合はどこかオルタナ・フォーク的な虚無感が出たか。髪と髭には白いものが目立ち知っている写真と比するに結構老けたかなと思わすのだが、それに見合う豊かな人間性がすうっと浮かび上がりもする、退きの美学が横溢するパフォーマンスと言えたはず。彼、うれしそうに日本語によるMCもかます。
そして、彼の呼び込みで、他のメンバーたちがステージに上がり、バンハート・バンドの実演が始まる。歌/ギターの本人(痩せているなあ)、ギター、ベース、ドラム、そしてキーボードやギターのアマランチという陣容。ギター陣は皆エレクトリック・ギターを手にするが、それでもフォークというしかない質感を持つのは、ポイント。以前より、音楽的な幅は減っていると思えなくもないのだが、そうでありながら美味しい含みや余韻がすうっと広がる手触りはこの人の美点。“負け犬”的脱力感たっぷりのパフォーマンスなんだけど、それでも自分のことは示せるし、人の心も動かせる。なんか、いろんな軋轢がでがちな現況において、一つの好ましいあり方を暖簾に腕押し的な実演を介して彼らは提案していたかもしれぬ。そして、それには、南米経験/属性もまたプラスに働いているというのは、うがった味方だろうか?
皆んなヘタうま調コーラスをときにとり、それはとても良い。アマランチもまったくのバンドの一員として振る舞うが、結構一緒にツアーしているみたいだし、お互いのアルバムにも客演しあっているし、それも当然か。カンニング・ペーパーを見て日本語MCもしたバンハートは、途中で日本語歌詞を入れる曲も歌った。かつて、発表していたっけ? 実は彼、かなりな日本のロック/ポップ・ファン。金延幸子(1999年5月31日)は彼にとって一番の存在なようだが、彼女はシスコ在住なはずで何か絡めばいいのに。バンハートも単独弾き語りを、2曲披露した。
▶︎過去の、デヴェンドラ・バンハート
http://43142.diarynote.jp/201002072245512219/
http://43142.diarynote.jp/201108101630438805/
▶︎過去の、金延幸子
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live2.htm
そして、2番目は丸の内・コットンクラブで、大御所ドラマーの︎ピーター・アースキン(2012年6月21日、2013年6月26日、2014年12月14日、2016年3月9日)のリーダー・バンドを見る。こちらの、“え〜、あの人”はアルメニア出身の在LAピアニストのヴァルダン・オブセピアン。2000年代に入る頃からフレッシュ・サウンド他から、自作曲とともにソロからチェンバーぽいのまで、美意識と異彩を放つピアノ表現をじっくりと問い続けてきている、間違いなく個性を持つ人物。どういう経過は知らぬが、彼はブラジルの今様ボーダーレス自在感覚を持つ女性シンガーのタチアナ・バーハと連名になるデュオ作『Lighthouse』も2014年に出していて、ブラジル音楽ファンからも知られますね。
そのオブセピアンと6弦エレクトリック・ベースを弾くダミアン・アースキン(ピーターの血族?)と一緒にピーター・アースキンはピアノ・トリオを組んでいて2枚のアルバムを2010年代以降にリリース。そして、今回はその単位にアースキンの友達のアーロン・サファティーがパーカッションで加わる。叩かない曲もあるなど、彼がいてもいなくてもどっちでも良かったと思われるが、ドラムや打楽器をやっている人には興味深い設定ではあったか。
その2016年作『In Praise of Shadows』のオープナーだった「上を向いて歩こう」もやるなど、基本はそのザ・ニュー・トリオの行き方に沿う。オブセピアンはアコースティック・ピアノに専念しブリリアントな音珠を放つかたわら、ベース音はエレクトリックのそれ。その土台にはシャキッとした感覚と質量感を併せ持つアースキンの達者なドラミングがあるわけで、それぞれの傾向が一般的な感覚においては少しづつズレている感じもするのだが、そうしたこと込みでアースキンは手垢にまみれないピアノ・トリオを表現を求めるようとしているのか。
しかし、ぽっこり体系、白髪でハゲていて、目は疲れたようにとろーんとしていて力がないなど、アースキンの外見は70歳すぎ(実は1954年生まれだから、60代前半だ)に見えるが、すべてレギュラー・グリップによる彼の演奏はさすがに耳を引く。やはり、うまい。音も綺麗だよなあ。一方、横顔はサッカー選手/監督のジダンみたいなオブセピアンはビートのはっきりした曲においてはかなり粒立ちの良いポップネスを放つ指さばきを披露してへええ。そういう演奏もするとは知らなかった。アルバムではモンク流れのようなダークにしていかにもジャズなほつれを出す場合もあったが、この晩は一切その側面は見せず。ただし、かなりクラシック素養を出すところは散見され、そのあっけらかんとした佇まいになぜかぼくはアルゼンチンのアカ・セカ・トリオ(2016年8月31日)のピアニストのことを思い出したりした。とかなんとか、重なる出自を持つティグラン・ハマシアン(2015年10月12日)も彼に一目置くというのは、皮膚感覚で納得した。
▶過去の、ピーター・アースキン
http://43142.diarynote.jp/201207031311348277/
http://43142.diarynote.jp/201306271617516710/
http://43142.diarynote.jp/201412281017371613/
http://43142.diarynote.jp/201603111218495183/
▶︎過去の、アカ・セカ・トリオ
http://43142.diarynote.jp/201609201856257822/
▶過去の、ティグラン・ハマシアン
http://43142.diarynote.jp/201409291402101328/
<今日の、続き情報>
そんなオブセピアンをミスして残念と思った人も一安心? 5月下旬から、先に触れたタチアナ・バーハとデュオで、二人は4都市を回る日本ツアーをする。http://www.nrt.jp/blog/2017/03/tatiana_parravardan_ovsepian_j_1.html
最初は、六本木・ビルボードライブ東京で、べネズエラ育ちである米国人シンガー・ソングライターのデヴェンドラ・バンハート(2010年2月4日、2011年8月4日)の公演を見る。
まず、同行バンド・メンバーであるブラジル人シンガー・ソングライター/クリエイターのホドリゴ・アマランチが一人ふらりと出てきて、3曲エレクトリック・ギターを爪弾きながら歌う。元ブラジルの人気バンド、ロス・エルマーノスの一員。マリーザ・モンチ他への楽曲提供/客演で知られる彼はポル語と英語曲の双方を歌う。LAに住むようになって10年ほどたつが、ポル語の場合はボサっぽい寛ぎ感が前に出て、英語の場合はどこかオルタナ・フォーク的な虚無感が出たか。髪と髭には白いものが目立ち知っている写真と比するに結構老けたかなと思わすのだが、それに見合う豊かな人間性がすうっと浮かび上がりもする、退きの美学が横溢するパフォーマンスと言えたはず。彼、うれしそうに日本語によるMCもかます。
そして、彼の呼び込みで、他のメンバーたちがステージに上がり、バンハート・バンドの実演が始まる。歌/ギターの本人(痩せているなあ)、ギター、ベース、ドラム、そしてキーボードやギターのアマランチという陣容。ギター陣は皆エレクトリック・ギターを手にするが、それでもフォークというしかない質感を持つのは、ポイント。以前より、音楽的な幅は減っていると思えなくもないのだが、そうでありながら美味しい含みや余韻がすうっと広がる手触りはこの人の美点。“負け犬”的脱力感たっぷりのパフォーマンスなんだけど、それでも自分のことは示せるし、人の心も動かせる。なんか、いろんな軋轢がでがちな現況において、一つの好ましいあり方を暖簾に腕押し的な実演を介して彼らは提案していたかもしれぬ。そして、それには、南米経験/属性もまたプラスに働いているというのは、うがった味方だろうか?
皆んなヘタうま調コーラスをときにとり、それはとても良い。アマランチもまったくのバンドの一員として振る舞うが、結構一緒にツアーしているみたいだし、お互いのアルバムにも客演しあっているし、それも当然か。カンニング・ペーパーを見て日本語MCもしたバンハートは、途中で日本語歌詞を入れる曲も歌った。かつて、発表していたっけ? 実は彼、かなりな日本のロック/ポップ・ファン。金延幸子(1999年5月31日)は彼にとって一番の存在なようだが、彼女はシスコ在住なはずで何か絡めばいいのに。バンハートも単独弾き語りを、2曲披露した。
▶︎過去の、デヴェンドラ・バンハート
http://43142.diarynote.jp/201002072245512219/
http://43142.diarynote.jp/201108101630438805/
▶︎過去の、金延幸子
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live2.htm
そして、2番目は丸の内・コットンクラブで、大御所ドラマーの︎ピーター・アースキン(2012年6月21日、2013年6月26日、2014年12月14日、2016年3月9日)のリーダー・バンドを見る。こちらの、“え〜、あの人”はアルメニア出身の在LAピアニストのヴァルダン・オブセピアン。2000年代に入る頃からフレッシュ・サウンド他から、自作曲とともにソロからチェンバーぽいのまで、美意識と異彩を放つピアノ表現をじっくりと問い続けてきている、間違いなく個性を持つ人物。どういう経過は知らぬが、彼はブラジルの今様ボーダーレス自在感覚を持つ女性シンガーのタチアナ・バーハと連名になるデュオ作『Lighthouse』も2014年に出していて、ブラジル音楽ファンからも知られますね。
そのオブセピアンと6弦エレクトリック・ベースを弾くダミアン・アースキン(ピーターの血族?)と一緒にピーター・アースキンはピアノ・トリオを組んでいて2枚のアルバムを2010年代以降にリリース。そして、今回はその単位にアースキンの友達のアーロン・サファティーがパーカッションで加わる。叩かない曲もあるなど、彼がいてもいなくてもどっちでも良かったと思われるが、ドラムや打楽器をやっている人には興味深い設定ではあったか。
その2016年作『In Praise of Shadows』のオープナーだった「上を向いて歩こう」もやるなど、基本はそのザ・ニュー・トリオの行き方に沿う。オブセピアンはアコースティック・ピアノに専念しブリリアントな音珠を放つかたわら、ベース音はエレクトリックのそれ。その土台にはシャキッとした感覚と質量感を併せ持つアースキンの達者なドラミングがあるわけで、それぞれの傾向が一般的な感覚においては少しづつズレている感じもするのだが、そうしたこと込みでアースキンは手垢にまみれないピアノ・トリオを表現を求めるようとしているのか。
しかし、ぽっこり体系、白髪でハゲていて、目は疲れたようにとろーんとしていて力がないなど、アースキンの外見は70歳すぎ(実は1954年生まれだから、60代前半だ)に見えるが、すべてレギュラー・グリップによる彼の演奏はさすがに耳を引く。やはり、うまい。音も綺麗だよなあ。一方、横顔はサッカー選手/監督のジダンみたいなオブセピアンはビートのはっきりした曲においてはかなり粒立ちの良いポップネスを放つ指さばきを披露してへええ。そういう演奏もするとは知らなかった。アルバムではモンク流れのようなダークにしていかにもジャズなほつれを出す場合もあったが、この晩は一切その側面は見せず。ただし、かなりクラシック素養を出すところは散見され、そのあっけらかんとした佇まいになぜかぼくはアルゼンチンのアカ・セカ・トリオ(2016年8月31日)のピアニストのことを思い出したりした。とかなんとか、重なる出自を持つティグラン・ハマシアン(2015年10月12日)も彼に一目置くというのは、皮膚感覚で納得した。
▶過去の、ピーター・アースキン
http://43142.diarynote.jp/201207031311348277/
http://43142.diarynote.jp/201306271617516710/
http://43142.diarynote.jp/201412281017371613/
http://43142.diarynote.jp/201603111218495183/
▶︎過去の、アカ・セカ・トリオ
http://43142.diarynote.jp/201609201856257822/
▶過去の、ティグラン・ハマシアン
http://43142.diarynote.jp/201409291402101328/
<今日の、続き情報>
そんなオブセピアンをミスして残念と思った人も一安心? 5月下旬から、先に触れたタチアナ・バーハとデュオで、二人は4都市を回る日本ツアーをする。http://www.nrt.jp/blog/2017/03/tatiana_parravardan_ovsepian_j_1.html
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