くるり

2009年6月10日 音楽
 青海・ゼップ東京。新作『魂のゆくえ』収録曲をかなり柱に据えてのツアー中だが、実はこの日が新作の発売日とか。つまり、事前に新曲を聞かず、ライヴの場で初めてそれらに触れているファンも少なくないはず。ほう。それはそれで、新鮮にして多大な感興を得られるはずだが。

 びっくりしたのは、岸田繁(ギター、歌)と佐藤征史(ベース)のメンバー二人にサポートのボボ(ドラム)、その3人で全編やったこと。NY録音(ながら、録音参加者は全員日本在住の日本人で、エンジニアだけがニューヨーカー)の新作はけっこうキーボード音(使われ方は極めて旧来のポップ/ロック文脈に依る。くるりのレーベルからソロ作を出している、世武裕子が弾いていた)が耳に残る仕上がりだったのに。でも、今回彼らを取材したこともありけっこう新作を聞き込んだぼくの耳にもストレートなギター・サウンド・ヴァージョンはいっさい違和感を覚えず。佐藤とともに、けっこうコーラスもしていたドラマーはいい叩き口を持つ人。後で、彼が在籍している54-71というバンドをチェック。ちょいドン・ヴァン・ヴリート(キャプテン・ビーフハート)を意識したようなヴォーカリストの味はぼくには過剰すぎるが、なるほどしゃきっとした気持ちのいいドラムの音がそこにも認められた。

 てなわけで、原点に立つような、最小限のロック・バンド・サウンドで堂々勝負。機械/プリセット音の使用も一切なし。でも、いいメロディやコード使いとそれに合う言葉を伴う楽曲を適切なギター演奏とともに繰り出す様には、ロックはこれでいいのダと思わせられたかな。実際、岸田はいいギター弾き。単音弾きのギター・ソロをやったのは元気な新曲「ベベブ」だけ(ぼく、この曲の冒頭部を聞くと、ザ・バンドの「シェイプ・アイム・イン」を思い出す)で、あとは基本複音弾きで豊穣に勝負していて、それにはおおきく共感。先のライヴ盤の京大西部講堂サイドでぼくが大好きなザ・グルーヴァーズの藤井一彦をサポート・ギタリストに据えていたのも逆説的に納得した。とにかく、やっぱ確かなロック感覚を持っていると思う。ほとんどしないのでいいけど、MCだけはぼくにはNG。あれ、やっぱりロック度落ちます。

 アンコールで、3人は突然演歌をぶちかます。「津軽海峡冬景色」の1コーラスをざっくり。もう、場内沸く。そしたら、その曲をヒットさせた石川さゆりが洋装で出てきて、一緒にお話コーナーを。ここ2年、くるりが9月に畑違いの人も呼んでやっている野外イヴェント“京都音楽博覧会”に、こんど石川が出るのだという。その後も、リクエストの声をもとに2曲演奏したりで、全部で2時間20分ぐらいのショウだった。

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